時計が刻んだ先の話｜リアクション

時計が刻んだ先の話

【あつあつたこやき】

「もうひまわりって咲いてるんやなぁ」

ベンチで頭を抱えている神無の手に握られたひまわり。それを見ながらマリベル・ロイスは別のベンチに腰掛ける。
手にしたビニール袋から取り出したのは持ち帰りのパックに包まれたあつあつのたこ焼き。
大きな丸いたこ焼きの上で鰹節が躍っている。ソースとマヨネーズの香りにマリベルは幸せそうな笑顔をみせた。

「こんな暑い日はたこ焼きにかぎるわあ」

ペットボトルのお茶を脇に置き、２本の爪楊枝を器用に使ってひとつめのたこ焼きを持ち上げる。
さくりとした表面に、内側のしっとりとした感覚が爪楊枝越しに伝わってくる。至福の時が近い。

「いっただっきまー……ありゃ？」

口を開けたマリベルの視線の先に、真白な猫が座っていた。青い瞳でにゃあと鳴く。

「あー、白い猫さんやあ。かわええなあ」

いったんたこ焼きを器に戻し、白猫においでおいでと手を振る。白猫がベンチに飛び乗りその首筋を撫でてやる。

「よしよし、たこ焼き食べるかー？」

たこ焼きを小さくしようと白猫から視線を外し、ふと前を見る。

「……へ？」
「オーラ！私、元気にしてた？」

露出度の高い大胆なミニドレスに派手目な化粧。プラチナブロンドの髪を伸ばした、セクシーな女性が目の前に立っていた。

「お、オーラ……え、私？」

思わず挨拶を返す。呆気にとられたままその後に続いた言葉を繰り返した。

「そう、私。私は未来のあなたなのよ？」
「……ああ、そうか、夢やな。白昼夢っちゅうやつや」

ぽん、と手を打ちひとり納得したようにたこ焼きに手を伸ばす。

「ちょ、ちょっと無視しないでよ！」
「なんや、よう喋る夢やなあ。たこ焼きは冷めてしもたら美味しくないねんで？」
「知ってるわよ！信じてないでしょあなた」
「信じるも何も、夢やしなあ」

たこ焼きを口に放り込み、思っていた通りの美味しさに恍惚の表情を浮かべる。

「変わってないわね。でも私本当にあなたの未来なのよ？」
「夢じゃない、言うん？」
「そうよ？」

そう言われてマリベルはじっくりとセクシーなその姿を見つめる。
今の自分とは明らかに違うその姿。もし、本当に自分の未来だとしたらいったい何がここまで変えたのだろうか。

「未来の自分に何があった、って思ったでしょ？」
「なんでわかるん！？」

思わず大きな反応を示したがよくよく考えてみれば未来の自分なのだからそれぐらい想像できてもおかしくない。
マリベルは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「やっと信じてくれた？」
「うん、でも、ほんまなんでそんな、せ、セクシーになってしもたん？」
「うーん、それは内緒だけど」

内緒なんかい、とマリベルは心の中でつっこむ。
それに気づいたのかセクシーマリベルはにこりと笑う。左手をひらひらと振って「まぁいいじゃない」と返した。
その左手の薬指に指輪がはまっているのを見て、マリベルは食べかけのたこ焼きを器の上に取り落とした。

「け、結婚してるん……？」
「ん？ああ、そうね」

セクシーマリベルはマリベルに見やすいように左手をかざす。細かい装飾が施された指輪。それがマリベルの目に映る。

「も、もしかして未来の私がそんなに、せ、セクシーになったんは旦那さんが……？」

セクシーマリベルはその問いに応えず意味深な笑顔を向けるだけ。
そして綺麗に整えられた指先でマリベルの額をこつん、とはじいた。
そのまま胃のあたりを指差して耳元でささやく。

「いいこと。男の胃袋を掴みなさい。特にたこ焼きの……腕はいつでも磨くのよ？」

セクシーマリベルは「チャオ！」と手を上げて踵を返す。
マリベルが呼び止める前にその姿は消えていた。

「たこ焼きって……なんやの！？それが縁なんか！？」

マリベルは食べかけのたこ焼きを口に含む。

「うちのたこ焼きは日本一やで！？」