時計が刻んだ先の話｜リアクション

時計が刻んだ先の話

【思い出の宝箱】

「よぉ、これは夢だよな？目の前にテメェ本人がいるってことは、そうなんだろ」
「まぁそうだな。俺は未来のテメェで、これはテメェの夢かもしれねぇが、まぁそんなことはいいだろ。俺なら」
「ああ、そうだな。あんたが俺なら、俺が生きてった先のことだ。興味もねぇ」

作りかけの時計を取り戻そうと、白猫を抱きかかえたはずだったのだが。
仁科宝良の目の前にはいくつか年齢を刻んだ自分がいるだけだった。その状態を夢だと割り切り、動揺するでもなくその場に適応している。

「にしても、あの時計がきっかけで未来を見るってのもなかなか皮肉なもんだな」

そう言いながらテーブルに腰掛ける。椅子は未来の自分が占拠しているため、仕方なく、だ。

「過去を引きずるよりは前向きだろ」

未来の宝良が言葉を繋ぐ。その通りだな、と呟きながら、思い返すのは過去の最愛の恋人。

『時計って、綺麗にしてあげれば何十年も動くって言ってたでしょ？』

昨日のことのように恋人の言葉が思い返される。無邪気な笑顔を向けて、宝良の手を取って続ける。

『それって、時間を刻みながらずっと見ててくれるってことよね。色んな思い出といつも一緒……思い出の詰まった宝箱みたいに』

そして、愛おしそうに握った手を撫でる。まるでその手から生み出されるものへ愛情を注ぐかのように。

『私、そんな時計も、時計を作る宝良も大好きだよ？』

「思い出してんだろ、あいつのこと」

未来の自分に言い当てられて、宝良はふん、と鼻を鳴らす。

「思い出すまでもねぇよ。……ずっと覚えてるからな。あんたもそうだろ？」
「ああ、あたりまえだろ。同じなんだから」

そう言って未来の宝良は煙草を一本口にくわえる。宝良も同じようにしようとし、手元に煙草がないことに気付いた。

「ああ、ヤニはテーブルの上に置いたままか……。おい、一本くれよ。どうせ同じ銘柄だろ？」
「しかたねぇな、ほら」

未来の宝良が差し出した箱から煙草を一本取り出して同じようにくわえる。ゆらゆらと煙草の煙が２本立ち上った。

「ま、せいぜい長生きしろよ、俺」
「煙草控えたら長生きできるぜ」

くだらないことを話しながら煙草の煙を吐き出す。宝良の背後で、時計店の扉が開く音がした。
振り返れば、甥の春貴が、白い猫を携えて入ってくる。

「ただいま帰りました叔父上、あの」
「よお、猫」

宝良は白猫の耳元を撫でてからゆっくりと時計を取り外す。
作りかけの時計の針は止まったまま動かない。

「やっぱり、叔父上のでしたか」
「ああ、見つけてくれてサンキューな」

宝良に礼を言われ春貴は少し頭を下げる。

「さっきまで、誰かと一緒だったんですか」
「いや、ひとりだよ」

春貴の言葉に、宝良は作業部屋を振り向く。
そこには誰も座ってない椅子と、灰皿に吸いかけの煙草が一本、置いてあるだけだった。

「叔父上、前々から言っているように俺の前で煙草は控えていただきたい」
「うるせー。ヤニくらい好きに吸わせろ」

何度目かのやり取りをするふたりを見ながら、白猫がにゃあと鳴く。

白猫と時計が届けた不思議な１日は、これでおしまい。

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あとがき

担当マスター：時織椎
ファンレターはマスターページから！

ご参加いただきありがとうございます、時織です。
さて未来を垣間見たシナリオはいかがでしたでしょうか？
過去に逸物抱えているPCさんも、未来に爆弾を抱えているPCさんも、楽しんでいただけたのなら幸い。
寝子島に住まう皆様の未来に幸あらんことを！

それではご縁がございましたら次回シナリオでお会いいたしましょう。
時織椎

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