時計が刻んだ先の話｜リアクション

時計が刻んだ先の話

【HEROES】

「やぁやぁ我こそは“猫神戦士テオドロ”！」

いきなり風雲児轟の眼前に現れたのは灰色をメインとした特撮ヒーローのような恰好の男。
名乗りのあげ方こそ違うものの、その動き方や声に覚えがあった。

「まさか……俺か！？」
「そうだ！まさしく俺自身だ！」

轟の言葉に親指を立てて肯定するテオドロ。轟は同じように親指を立てる。

「俺なのに“ザ・ストレイト”じゃないのか」
「ああ、“ザ・ストレイト”からは卒業した」

ヒーロースーツ姿の自分をまじまじと見て、轟は寂しそうに唇を尖らせる。

「そっか……まぁそういう時期が来るのはわかっていたけど、それでもやっぱり寂しいな」

轟を励ますようにテオドロは肩を叩く。

「ヒーローがそんな弱腰でどうする！子供たちに夢と希望を与えるのがヒーローだろう？」

正義の味方、という言葉を使わないあたりが自分らしい、と轟は笑みを浮かべる。
違うヒーローになっても、正義に対する感覚は変わっていないらしい。
そのことが少しだけ嬉しかった。

「というか、テオドロってなんだよ」
「テオを覚えているか。あいつをイメージしたんだ」
「だからそのカラーリングなのか……ん？そういえばテオやののこはどうなったんだ？」

轟の質問にテオドロは少し考えるような素振りを見せてから、大げさに肩をすくめてみせた。

「実はあいつらについては記憶がぼやけてるんだ。だからどうなったのかはっきりとは覚えていない」
「……お前、未来の俺だったのか！」
「そっちか！？今さらだな！」

轟の反応にテオドロがずっこける。轟は納得したように頷いた。

「体格がほとんど変わってないからわからなかったぜ。てっきり同じくらいの年齢なんだと」
「本当はもう少し身長伸びていてもいいと思うんだけどな」

テオドロの言葉にまったくだといわんばかりに首肯する。
そして改めてテオドロの衣装を観察した。

「こうやってテオがいたって証を形にしたのか。テオは迷惑そうな顔しそうだな」
「だろうな」

あっさりと同意したテオドロに轟は「同意するのかよ」と笑いながらつっこみを入れる。

「俺は猫神戦士テオドロとしてイベントや施設で子供たちのために活動している。……夢を叶えたんだ」

テオドロの言葉に轟ははっとした表情になった。
自分の目指していたものを手にした姿、それがテオドロなのだと、実感したのだ。

「そっか……。そうだな。お前は望んだ未来を手に入れた。俺も、お前に負けないぐらいのローカルヒーローになってやるよ！」

轟はテオドロに後ろを向くように頼み、大きく「戦衣着装！」と叫ぶ。
ろっこん「戦衣着装」でおなじみのヒーロー“ザ・ストレイト”に変身すると、テオドロの手を握った。

「それまで待ってろよ、俺！」
「ああ！」

握手をほどき互いに頷きあうと、背を向けて走り出す。
轟はランニングの続きへ。テオドロはきっと自分を待つ誰かの元へ。
夏の太陽がふたりの進む道を照らしていた。

白猫はちいさくにゃあと鳴く。後ろからこっそり近づいていた春貴の腕を躱し、しっぽを立てて振り返る。
捕獲に失敗した春貴は、白猫に先導されるまま轟の進むのとは逆方向に歩きはじめる。