ふしぎ超特急『七ッ星』、しゅっぱつしんこー！｜リアクション

ふしぎ超特急『七ッ星』、しゅっぱつしんこー！

★旅先で……ドラゴン！

「こういう展開も想定はしてたが。うちのお嬢に手を出した代償、高くつくぜ、ドラゴンさんよ？」

　楓は投げナイフを立て続けに二本、ドラゴンの翼の皮膜目掛けて投げる。
　羽ばたきで簡単に打ち落とされるが、これはけん制。
　本命はワイヤー付きの投げナイフ！
　翼へ向かったナイフに気をとられている隙に、トワを咥えている爬虫類風の大きな口にワイヤーを絡めてぐるぐる巻きにしてしまう。
　――グルルルル。
　ドラゴンはワイヤーを厭がって、トワどころではなくなり、左右に首を振った。
　その勢いで、トワがぽーんと放り出される！

「オレに任せて！」

　展望車の手すりを蹴って、ユチェンが跳んだ。
「きゃあああああ！」
　悲鳴を上げるトワを空中でキャッチすると、空中でくるり一回転して着地した。

「怪我はない！？」

　なぎさがすかさず駆け寄った。手にはおなじみの赤い救急バックが握られている。
「All right。トワは大丈夫！　ユチェンは？」
　ユチェンは、トワを抱いた体勢で四股立ち風に両足を踏ん張っていた。
「ユチェン？」
「だ、だ、だいじょーぶ。男たるもの、このくらいいいいいたたた！」
　着地の衝撃が、じいいいいいんと両足に広がっているようだ。
　なぎさは、ユチェンの両手からトワを受け取って地に下ろすと、ユチェンを座らせて足を揉み揉みしたり逸らせたりして怪我がないか確かめた。
「これは？　これも大丈夫？　うん、問題ないね」

　一方、やっとのことでワイヤーを外したドラゴンは、一旦高く舞い上がると、その場でホバリングするように静止した。

　――我が名はユグドラシル。この世界の守護竜なり。

「ユグドラシル――世界樹神か！」
　樹がひとり合点したように頷く。
「ねえ、どういうこと？」
　光が訊ねると、樹は自分の知識から来る推測を披露した。
「おそらくあのドラゴンは、街を覆う世界樹に住む守護神のような存在なのだ。俺たちの存在はこの世界にとって異端というわけだよ。だから、様子を見に来たというわけだ。世界を脅かす存在であれば排除も厭わないというところだろう」
　すると漆青竜ユグドラシルは、然り、と答えた。

　――其方たちは何処から来たりて、何処へと行くのか。

　なぎさが充分に敬意を払いつつ、一歩進み出でる。
「ボクたちは、寝子島っていう所から来たんだ。何処へ行くのかは、ボクたちにもわからない。だってこの列車は『ふしぎ行』だから」
「なに、然程心配する必要はねえぜ」と楓が続けた。
「ここへはちょいと立ち寄っただけ。世界をどうこうしようとか思っちゃいない。こんなところで戦う必要はゼロだろ。気楽に見逃してもらえると助かる」
「そうなのか！？」
　驚愕したのは樹である。
「俺たちはこの世界の支配者となり世界を滅びの運命から救うべく『選別（えら）』ばれたのではかったのか！？」
「話をややこしくしなーい！」
　スパコーン！　光のハリセンの快音が響き渡る。
「はい、いやほんとに！　あたしたち、すぐにお暇しますから！」
　タイミングよく、ポッポーと出立を知らせる汽笛が鳴る。
　一同は急いで列車に飛び乗った。
「ではでは、剣と魔法の世界のみなさん、ドラゴンさん、さよーならー！」
「さらばだ！　剣と魔法のかりそめの安寧に包まれし虚無の大海の生きとし生ける者全ての存在よ――！」
　光と樹がドラゴンと剣と魔法の世界へ別れを告げる。
「会えて嬉しかったです、ユグドラシル！　ボクたちは行きます！」
　どこへかは知らないけれど、ワクワクするどこかへ！

　――祝福を送ろう。

　並走するように飛んで見送ってくれたユグドラシルに、なぎさが大きく手を振ったのと同時。
　ポウーーーーッ！
　と高く蒸気を噴き上げ、ふしぎ特急『七ッ星』は、上空高く駆け上った。

　さて次は、どんな世界が待っているのだろう。

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