ねこの消えた日｜リアクション

ねこの消えた日

　ぼさぼさの髪の下から、くまだらけの半目がのぞく。ジニー・劉の朝の表情ときたらいつもさわやかとはほど遠いものであったが、この日はいっそうひどかった。
「……朝起きたら、■■がい■えぞ。どうなってんだ」
この島に来る前から、理不尽、不可解、非常識なんて飽き飽きするほど見聞きし、体験してきた。だがこれはどうだ。部屋中に散らかった雑誌を拾い上げて、ぱらぱらとめくっては、また埃っぽい床に投げ捨てる。ネットを見ても同じことだった。
「ど■にも見あたら■え！　■■ったーもサイトも使い物になら■ーぞ。くそっ」
しばらくの間部屋で腐っていたが、事態は何ひとつ好転しない。薄暗い部屋から、気は進まないが明るい日の下へ。太陽の光が追ってくるのから逃れるように、ジニーは近くのコンビニへと逃げ込んだ。だがすぐにいらいらとした表情で店を飛び出す結果となる。
「だめだ！　■ンビニの雑誌も立ち読みできやし■ー！」
不満を口にすればするほど、『ね』がないせいで腑抜けた叫びにしか聞こえない。これもまた、ジニーの癇に障るのだった。
「ちっ……本田の事務所にでも行ってみっか」

「■を探してくれだぁ？」
　『本田宗次探偵事務所』の主、本田宗次は奇妙な依頼を受けていた。依頼主は成人前と思われる少年だ。高校生か、大学生か。何かを探して欲しいらしい。
（身なりを見る限り、星ヶ丘のボンボンってとこか）
「ですから、僕の■を探していただきたいんです」
「あ？　■って何だよ、はっきり言え……あー、ペットか……」
今日は朝からこうなのだ。誰も彼もみな平等に、声が出ない……というよりは、特定の文字に関する表記や発音、発声ができない。深く考えても仕方がないし、依頼されてもいない事柄を調べるのは探偵の仕事ではない。宗次はこんな日は資料の整理でもするに限る、と思っていたところだったのだ。
（仕事が来たと思ったら、お坊ちゃんのペット探しとは頭が痛い）
「あのなあ、坊主。俺はそう言う仕事は請け負って■え。ペット探すなら便利屋にでも……」
「頼みます！　あなたが頼りなんです。報酬はきちんと支払いますから！」
少年は真剣そのものと言った顔で、懐から膨らんだ封筒を取り出し、まっすぐに宗次に差し出した。
「ひいふうみ……って、三十万出すって言うのか!?」

　考えた末に宗次は猫探しの依頼を引き受けた。少年は深々と礼をして去り、手元には毛並みはよいが、若干ふてぶてしい目つきの洋猫の写真が残された。宗次は神妙な顔つきで写真を見る。
「金に目がくらんだわけじゃ■えぞ。たとえガキでも、星ヶ丘のセレブと繋がりができれば後々役に立つと思ったからだ。プライドを捨てたわけじゃ、ないからな」