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月に喚ばれし悪魔の群と、とある落神の願い
幽かな約束
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踏み出した足元が真っ白々のもふもふに包まれていて、
ロシィ・イシロ
はぱちぱちと瞬いた。
(ん? あれ?)
ろっこんを使えば狼犬には変身できるけれど、今の自分の姿は違う気がする。もっともっふもふしている。
いつか見たロシア原産のもふもふわんこ、サモエドに似ている。しかも今日は二本足で歩けている。
(ふしぎだぞ?)
三角耳を傾けて、
「ん」
ロシィは今度は反対側に首を傾げる。神社っぽい建物と廃ビルっぽい建物が合体したような、こちらも不思議な建物のどこからか誰かの泣く声が聞こえてくる。小さな声だけど、何故だか今は聞き取れる。
「こっちだ!」
躊躇いもせずに駆けだす。割れたアスファルトに立った朱色鳥居を潜り、白煙を吐き出す配管の下を駆け抜ける。迷路みたいな道の先には、
「泣かないで、ケルちゃん」
濃灰色の髪の隙間から角を生やした女のひとと、へたり込んで泣くケルベロスの子どもが二匹。
「どうしたワンちゃん?」
駆けよって来る真っ白なコボルトに、ゴブリンに変化した
シオ・レイゼルオーク
は目を輝かせる。おうちに帰りたいようときゅんきゅん泣く子ケルベロスちゃんずも可愛いけれど、ケルちゃんずにもふもふの身体を寄せて懸命に励ますコボルトちゃんも可愛い。
(しかも)
いつの間にか迷い込んでいたのは神社と荒廃ビルが合わさったような迷宮の真ん中。ついうっとりと見惚れてしまいそうになる瞳を、シオはロシィと小犬達に戻す。
「お腹空いていない?」
取り出した携帯大豆バーを四つに割って、ひとかけらずつ渡す。
「本当は知らないひとからお菓子貰っちゃいけないけど、こんな大変なことになっているから、今日は特別。ね?」
微笑みながら皆に渡して、自分もひとくち。
(うん、美味しい。大豆らぶゴブリンね)
食べて元気が出たら、皆で出口を探そう。今日は何だか勘が冴えている気がしないでもない。
「さぁケルちゃん、君らは誇り高い門番種だから、これはちょっとした試験とか修行とか冒険とか、そう考えてみるのどう?」
門の位置を正確に把握するのが今回の課題、とシオは先生のように言って見せる。
「がんばろー」
「ロシィも手伝う!」
がるるー、と唸ってろっこん発動、サモエドロシィは狼犬ロシィに変身する。
「おうちに帰れないのはかなしいぞ! 付いてくるんだぞ!」
くんくんと外の匂いを探して先頭に立ち、ずんずん進もうとするロシィをシオは呼び止める。
「そっちは危ない気がするわー」
「それじゃあこっちだ!」
「うん、こっちは大丈夫そう」
狼犬とゴブリンの即席コンビは、和気藹々と迷宮の脱出に取り掛かる。
ぽいんと跳ねてぺしょんと着地。ぺたぺた這って身体を伸ばしてぽにょんと元通り。
「ふっふ」
若草色スライムと化した身体の具合を確かめながら坑道のような狭い道を進み、
薄野 五月
はあまりにも新鮮な体験に笑みを零した。
(ここはもしかして寝子島神社でしょうか?)
ジャンプして進むのがいちばん早そうだと判断しつつ、五月は視線を伸ばす。朱い提灯がぶら下がった道の先、いつもお参りしている寝子島神社のものとよく似た鳥居が建っている。鳥居の向こうには、打ち捨てられて荒廃した雑居ビルのよう建物。
(なかなかハイカラな雰囲気に様変わりしてらっしゃる)
鳥居を潜って気が付いた。どこからか誰かの泣く声が聞こえてくる。数匹の小犬が鳴き喚くような声と、それから、
「よしよし、大丈夫だよ」
「あらあら、迷ってるみたいねぇ」
小犬たちを慰める誰かの声。
声と一緒に漂ってくる金木犀の香も頼りに提灯と廃ビルの路を進んで、
「おおー」
五月が見たのは二本の美しい樹。ひともとはほろりと香を零す金木犀、ひともとは優しく揺れる薄紫の花咲かせた藤。
「迷子なんだね、可哀想に」
弥逢 遊琳
は金木犀の樹と化した腕で三つ首の小犬をそっと抱き上げる。ひとのかたち残したもう片方の手で優しく撫で、ひとの掌と胸の温もりを与える。まずは落ち着いてもらわなければと思うものの、抱き上げた子以外にも、他にも数匹が足元でもそもそめそめそとしている。
「一緒に出口を探してあげる。だからもう泣かなくていいよ」
遊琳はその場に優雅な仕草で膝をつく。小犬たちと視線を合わせてろっこんを発動させれば、三つ首の小犬たちは大切な仲間にそう言われたように素直に泣き止んだ。
少し離れた場所の小犬の群の傍、
多岐川 玲栖
は腕が変化した藤の樹と花房を揺らして小犬を一匹ずつ抱き上げる。泣きながらわたわたする小犬を柔らかく抱きしめて精神を集中させ、ろっこんである『紫天使』を発動させる。心身の傷を癒す力を、小犬はちょっぴり怯えた風を見せながらも大人しく受け入れた。
ほんとはね、と小犬は小さな声で囁く。
「だめなの。おとなはね、ぼくらは『たちかみ』さま配下の悪魔だから、『女神ののこ』のもれいびの施しを受けちゃだめって怒るの」
だから、と小犬はますます小さな声になる。
「ないしょにしててね」
玲栖は頷く。小犬と同じに声をひそめる。
「みんなには内緒、ね」
皆でわあわあ泣いていた三つ首の小犬たちは全員大人しくなった。
「お見事です」
小犬たちの心細さを癒すふたりの手際に、スライム五月はぽいんぽいんと跳ねる。
「私もお手伝い致しますよー」
ぽいーん、と跳ねた若草スライムの前、三つ首小犬の一匹が飛び出す。乗ってー、と楽しそうに言われ、若草スライムはふっふと笑った。
「寝子島神社は赤ん坊の頃から参拝しておりますゆえ、ご安心を!」
出発する前に、五月はスライム粘液で壁の一部を溶かして目印にする。曲がり角ごとにこうして目印を付けて進めば迷わずに済むはず。
「それじゃあ、皆でいっしょに行きましょうね」
「ねぇ、出口が見つかるまで何かお話してよ。魔界のお話、聞かせて」
和やかに迷路の踏破に挑みながら、遊琳は穏やかな声で小犬たちに話を請うた。
大好きな遊琳に小犬たちは我先にと話す。
自分たちの棲む暗黒の森とそこに聳える迷宮の城のこと。
時々友達の首無し馬と遊ぶ月の綺麗な砂漠のこと。
小犬たち一匹一匹に丁寧に頷き返し、遊琳はどこか浮世離れした微笑みで応じる。
「いいなぁ、僕も住んでみたい」
口にしてから、それが己の心の奥の奥から聞こえた囁きのようにも思えて、遊琳は幽かに笑みを深めた。
朱色の千本鳥居を潜った道の果て、苔むした井戸のある広場の真ん中で顔を見合わせているのは、
時高 クレオ
と
五月女 凛子
と
遠野 まほろ
。
ふさふさの耳を触り、くるりと巻いた尻尾を揺らし、クレオは大きな眸をますます大きく瞠る。
(く、クレオ、わんこになっちゃったの!?)
えぇ、と叫んでしまいそうな唇を両手で抑え、眉を寄せる。
(取り乱したらクールじゃないわよね)
ここには自分以外にもわんこな女の子たちがいる。
「うち、なんでわんこになってるん?」
明るいイエローブラウンの耳と尻尾をしょんぼり垂らし、凛子はきょとんと周りを見回す。犬のかたちした両手を見下ろし、同じく犬のかたちの鼻先に驚きを隠せなくなる。
越して来たばかりのこの島を散歩していて、ふと見上げた空に月がいくつも輝いた次には、奇妙な場所に立っていた。
「うち、いつのまにうたた寝したん?」
現状を夢であると信じて首を傾げる。とはいえ、この姿で寮に帰ったら、寮母に追い出されたりしないだろうか。
「困ったわぁ……」
そもそもここは寝子島神社であるはずなのに迷路のようになってしまっている。
「帰れるんかな……」
「なんだかまた大変なことになってるんだね」
思わず涙目になる凛子の肩を、まほろは肉球の手でもふもふ叩く。まほろだって二本脚で歩くもふもふわんこに変わってしまっているけれど、状況も理解できているとは言えないけれど、今は自分に出来ることをするだけだ。
それだけを理解してまほろは出来る限り明るく笑ってみせる。
「大丈夫だよ。みんなが一つ一つ出来る事をすればきっと解決できるよ」
今までだってそうだった。だからまほろはそう信じる。
「そう、……そうよね」
クールな女性を目指すクレオは精一杯に背筋を伸ばす。
「えっと……とにかくここから出なきゃ」
わんこな今は、いつもよりも音がはっきり聞こえる気がする。音の反響を耳に集め、クレオは幾つもある道のひとつを選んだ。
心細そうな凛子の右手をクレオが、左手をまほろが取り、わんこな少女たちは煉瓦で覆われ松明に照らし出された道を進み始める。
「……!」
幾つかの曲がり角を折れて、クレオは足を止めた。あの曲がり角の先にナニカがいる。
お互いの手をぎゅっと握り合う。意を決して突入した先には、――相変わらず続く迷路。首を捻るクレオの足に、生暖かいナニカがぎゅっと引っ張った。
「キャーーー!?」
「わぁ……ちっちゃいわんこさんやね」
叫ぶクレオに抱きつかれながら、凛子がおっとりと笑う。
「って、あれ……わんこ?」
「ケルベロスの仔犬だね、可愛いね」
普段は猫と接することの多いまほろもふわりと微笑む。クレオの足に抱き着いて尻尾を下げて怯える三つ首の仔犬を優しい手で抱きしめる。一緒の腕にポケットから取り出したぬいぐるみも抱きしめてろっこん『きみのみかた』を発動させれば、仔犬は落ち着きを取り戻した。
「ご、ごめんね。キミも迷子なの?」
まほろの腕にしがみついて震える小ケルベロスを覗き込み、クレオは叫んで驚かせてしまったことを謝る。うん、とそれぞれの首で頷き応じる、自分が知っている地獄の門番よりも大分可愛らしい小ケルベロスに、クレオは頬を緩めた。
「うちらもなんよ」
凛子はおしゃべりできるわんこに目を輝かせた。まほろの腕から子犬を譲り受け、抱っこしてもふもふする。
まほろは空気の匂いを嗅ぐ。
「あっちから知ってる匂いがするんだ」
少女たちは頷きあい、迷路を進み始める。
「出口、みつかるまで一緒に頑張ろな?」
「ええ、がんばりましょう!」
「うん、がんばろう」
足元を光苔ばかりが照らす暗い道で、
春姫 いちご
は轟く胸を両手で抑える。
「えっとえっと、」
瞬きした次に変わっていた景色に混乱する頭で必死に考える。
(また不思議なことが起きちやったんでしょうかぁ……?)
視線を巡らせてふと気が付いた。髪に本物の苺が実り、ツインテールに結った髪に巻き付いている。
「わわ、……」
周りだけでなく自分自身の異変にも目を丸くする。
(と、とにかくここから出ないと、ですよね……!)
胸を抑えた手をぎゅっと拳にして一歩踏み出した途端、どこからか飛び出して来た三つ首の仔犬たちが足元に群がった。
鳴き声の合間に、迷子だの帰りたいだのの言葉を聞き、いちごはこくりと頷く。
「わたしがみなさんのこと、出口までお連れしますっ!」
いちごは髪に生えた苺を摘んで口に運ぶ。ろっこん『いちごじょうか』を発動させ、自分の分身を作り出す。分身した自分と本体の自分、二人分の両手で仔犬たちを全員抱き上げ、いちごは春のように笑う。
「頑張ってお外を目指しま……きゃ?!」
歩き始めようとした脇を、ナニカが過ぎた。
「トワについてくればダイジョーブ!」
ピンクのスカートの裾から覗く金色尻尾をふわりと揺らし、特に根拠のない自信を口にしながら
トワ・E・ライトフェロゥ
が振り返る。全身の毛をふわふわ揺らし、落ち着かなげにその場で跳ねる。
「コボルトワー、嘘つかないのデス!」
知らない間にコボルトになっていたことも、気が付けば知らないところで迷子になっていたことも、
(ヌヌヌ、デスがー)
この身体はなんとなくいつもより早く動ける気がする。
(具体的にハー、カエデが迷子になる十秒が五秒になった気がするマス)
トワは護衛の方が迷子になるのだと信じている。
(迷子と思った時点で迷子なのデス!)
なのでトワは決して迷子ではない。
「行きまShow!」
万が一出口を見つけられなくても、
(その内カエデが見つけてくれるとは思うマス!)
迷宮にますます迷い込みそうなコボルトワーの背中に、いちごに抱かれた小犬たちがきゃんきゃんと制止の声を上げる。
「走り出したコボルトワーは止まらないのデス!」
あちこち散々暴走しまくった挙句、トワは足を緩めた。
「待ってくださ……」
仔犬を抱いて追いかけて来たいちごも足を止める。立ち止まった足元にひらひらと舞い落ちるは桜の花びら。
「ケルベロス……?」
煉瓦の天井を支える朱色鳥居の前に立っていた
八重崎 壱都
が振り、警戒気味に目を細めた。黒髪を簪のように彩る満開の桜がふわり、また散る。
「トワは迷子ケルベロスを出口まで案内してるマス!」
「ですが見つけられなくてぇ……」
こちらも迷子らしいトワと付き添いのいちごに、壱都はそうですかと真面目に頷き返す。
頭を動かす度にひらひらと散る桜を横目、壱都は腕を組む。ドリアードに変化した己が身に戸惑いはしているが、今はそれどころではなさそうだ。
めそめそ泣く小犬たちの頭を撫でながら迷宮の攻略方法を熟考しようとするも、
「行くマスー!」
コボルトワーの暴走っぷりと迷宮の広さに業を煮やした。
「いっそ叩き斬れれば……!」
せめて刀さえあれば、と口走った途端に閃いた。トワの首根っこを掴んで動きを封じ、ドリアードの力を使って桜の木刀を作り出す。目前の煉瓦壁と対峙する。
「斬!」
叫んでろっこん『壱刀両断』を発動させれば、迷宮の壁はがらりと崩れた。
歓声をあげるふたりと小犬達に、壱都は凛と笑う。
「行きましょう」
息が切れた。苦しい息を吐き出した刹那、石床をのたくる木の根に足を絡め取られた。
くそ、と舌打ちするより早く、壁を伝う蔦を掴み体勢を整える。先を行った誰かが刻んだのか、インクの数字がそこにはあった。
いつもより蒼白い色した掌を拳にする。
「なんだこれ」
吐き出す息の冷たさに思わず呻く。混沌の渦中にある島を駆け回り、気づけば迷路のような場所に彷徨い込み、
滝原 レオン
はもう一度舌打ちする。しかめた視線を先へと伸ばして、
「……あ?」
木の根と蔦の這う廃墟じみた迷宮の端、震える三つ首の仔犬らしきものを見つけた。
(こいつも悪魔なのか)
島を滅茶苦茶にした悪魔の一味であれば、倒さねばならない敵であるのかもしれない。
見下ろすレオンに、小犬は小さく鳴いた。外に出たら帰れる、と堰を切ったようにきゃんきゃん泣き始める仔犬の前、レオンはしゃがみこむ。手を伸ばして抱き上げる。
「一緒に外に出よう」
寂しさに不安だっただろう小犬の頭を一度だけ撫でる。
「俺も手伝うから」
そう言ってはみたものの、どの方向へ進もうかと頭を巡らせたその時、ふわり、周囲の樹蔦が光を帯びた。警戒するレオンのもと、
「ああ、……こちらでしたか」
柔らかな声と共、黒っぽい豆柴コボルトの姿した
深縹 露草
と、
「迷子なの?」
額にゴブリンの小さな角を生やした
夢月 姫
が歩み寄る。レオンが抱いた小犬を小さな手で撫で、姫はポケットから出したハンカチをバスガイドさんの旗のように掲げてみせた。
「私が案内するよ!」
三人の穏やかな声を聞きつけてか、あちこちの影から別の仔犬達もきゃうきゃうとまろび出て来る。
「初めまして。私、露草と申します」
抱き上げて欲しそうに膝の乗ろうとする個体を抱き上げ、露草は仔犬達にそっと名乗った。
「そういえば……あなたに飼い主さんはいるのですか?」
手近な壁に油性ペンで数字を書き込みつつ、露草は腕に抱いた仔犬に問う。決して無理強いしない優しい口調に、小犬達は笑った。
飼い主は分からないということ、『おかあさん』がいること。口々に喋る仔犬達からそれを聞き分け、露草は頷く。
「では、おかあさんのもとに帰りましょうね」
「お外までついてきてね!」
姫はガイドさんの旗を振る。目を閉じて思い浮かべるのは、迷宮の外できっと待っていてくれている愛猫、くろとしろ。
目を開けば、愛猫達の場所を示す矢印のかたちした霧が浮かび上がっていた。
「でも、ちょっと暗くて見えにくいね」
「私にお任せを」
姫が首を傾げ、露草が優雅に微笑む。手にしたメモに小犬を意匠した紋様を手早く描きこみ、姫が出現させた霧が光るように念じれば、
「わあ……!」
矢印のかたちした霧に小犬の紋章が光と共に現れた。光り輝く霧の矢印に歓声をあげ、姫は旗にしたハンカチを振る。
「こちらが石でできたろうかで、あっちが木でできたかいろうです」
遅れがちな小犬を抱きかかえ、ガイドさんな姫は張り切って歩き始める。
「おそとまでもうすこし!」
白く冷たい己の肌を見下ろし、
如月 蘇芳
は小さな息を零した。目の前を塞ぐ石壁を大した感慨も抱かぬ眼差しで一眺めして後、踵を返す。
(……また何かに巻き込まれたみたいだね)
しばらく進んだ先の三叉路で足を止める。ところどころに吊るされた裸電球が明滅する天井を仰ぎ、僅かな困惑も表さずに正面の道を選ぶ。
多少反響してはいるものの、
「誰かいませんかぁ~?」
誰かの声が道の奥の暗がりから聞こえてきている。
明滅する光の下には、少女がひとり。
「……こんにちはぁ、すおーさん?」
「……やあ、因君」
よく偶然出会う少女、
天宮城 因
の人懐っこい笑顔に、蘇芳は卒のない笑顔を返した。
「運命感じて因のこと好きにならないで下さいねぇ?」
「真っ平ごめんだから安心して欲しいな」
優しい声に包んだ言葉の刃で互いに刺し合う。挨拶代わりの応酬を終え、蘇芳はそれより、と首を傾げた。
「なんだか動物の鳴き声がしない?」
「きっと可愛い小犬さんの鳴き声ですっ」
「因君みたいなきゃんきゃん吠えてる声がするね」
「可愛い因と遊びに来たんですねっ」
蘇芳の嫌味を無視して因は華やかな声で笑う。蘇芳を置き去りにする勢いで声がする方向へと向かうも、
「あっ、いたいた! 子犬さんたちー!」
殺風景な石の迷路の中を彷徨っていた数頭の小犬は、電灯の中に浮かび上がるふたりの姿を見かけた途端にキャンと悲鳴を上げて逃げ出した。
「えー、どうして逃げるんですかぁ?」
「因君に虐待されるのが怖いんじゃないかな? 人を見る目がある賢い子達だね」
「そんなワケないじゃないですかぁ、因はこーんなに可愛くて優しいんですよぉ?」
因はぷっと膨れてみせる。小犬達はますます悲鳴を上げて必死に逃走する。一応後について来ていた蘇芳はうんざりと視線を逸らす。
「きっと意地悪なすおーさんが一緒にいるせいですよぉ、まったくもう!」
「俺に責任を擦り付けるのはやめてくれないかな?」
本能で怯えて逃げ続ける小犬達を追いかける格好でふたりは迷路を歩く。
腹黒な怖い男女に追いかけられた小犬達は、泣き喚きながらも必死に迷路を踏破した。
「あーっ、小犬さんたちが出て行っちゃいましたぁ」
「ああ、あそこが出口みたいだね」
撫でたかったのにぃ、と悲しむ振りをする因を横目に、蘇芳は出口に向かう足を速める。
「因君だけもう一度入って来たらどうかな? きっとまだ迷子の小犬が居るかもね」
「もー!」
蘇芳に置いて行かれ、本心では小犬になんかちっとも興味のない因は可愛く拗ねる振りをする。
「すおーさんのばーかばーか!」
つんとそっぽを向く視界の端、神社と廃ビルを混ぜて固めたような迷宮からの脱出かなえた寝子島の人々と、彼らに連れられ外に出た三つ首仔犬達の姿が見えた。
「きゃーん、小犬さんたちが……いっぱい……」
はしゃいだ声をあげかけて、因は思わず絶句する。鳥居が無秩序に林立する迷路の出口の地面をほとんど埋めて、数十匹、下手をすれば百匹あまりもの子ケルベロス達が群れている。
「泣かずについて来てえらいね」
出口付近でちょこんと座って出迎えてくれた愛猫のしろとくろを膝に乗せ、姫はきゃわきゃわとみんなでじゃれあう小犬達を順繰りに撫でる。
「僕の事忘れないでね」
ずっと抱いていた小犬をたくさんの仲間のもとへと放してやりつつ、遊琳はそっと微笑む。ほんの少し寂しげにも見える遊琳の手に冷たい鼻先を寄せて約束するような仕草を見せてから、小犬は群れのもとへと駆けた。
「もし行き来出来るようになれば互いに遊びに行けるかもね」
シオが静かに瞳を和ませる。
全員揃ったことを確かめあい、百匹もの子ケルベロス達は一斉に空を仰いだ。三百あまりの声を合わせ、空に遠吠えを響かせる。
子らの遠吠えに応じ世界を隔てた遥か遠くから、ただ一声、その場の全員の腹に響く母犬のものらしい遠吠えが聞こえた、その次の瞬間。仔犬の群は忽然と消えていた。
「さようなら……」
露草は柔らかく笑う。
「次は平穏に会いたいものですね」
「ばいばい! またね!」
手を振る姫を見、レオンは空を仰ぐ。消える間際に見た、千切れんばかりに振られるたくさんの仔犬の尻尾を思った途端、笑みがこぼれた。
(……こんな俺でも、役に立てたのかな?)
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3人まで
シナリオジャンル
冒険
バトル
神話・伝説
定員
1000人
参加キャラクター数
165人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2019年01月19日
参加申し込みの期限
2019年01月26日 11時00分
アクション投稿の期限
2019年01月26日 11時00分
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