茜空の向こう側｜リアクション

茜空の向こう側

◆決意と、約束と

　迷い込んだ不思議な世界、どこかいつもと違うような旧市街の道。
　桜井ラッセルが出会ったのはクラスメイトの御剣刀だった。
「偶然。一人じゃなくてほっとしたー。どこだろな、ここ」
「何だか不思議なところだよな」
　感じるのは不思議さ。それは二人共同じらしい。
　ぐるりと辺りを見回せば、見ていたはずの夕暮れは夜の色に。
　闇色にはひっそり灯りが灯っていた。
「……あれ？」
　ラッセルが目にしたのは、自分とすれ違う人。
　ふとラッセルが目を奪われたのは――、
「ごめん、俺ちょっと行ってくる！」
　息をのむ程の懐かしい顔。
　刀に説明もないまま、ただ走りだした。
　誰も居ない方向へ走っていったクラスメイト。
　彼は何を見たのだろうと少し気になりながら、刀はその背を見送っていた。
　残された刀の耳に、鈴の音と童唄が微かに届く。

「海道！　俺だ！　中学ん時の桜井ラッセル」
　追いついて、呼び止める。
　荒げた呼気を整えて、顔を上げた。
「分かる……よな？」
　少しだけ不安になって、確認した言葉に、懐かしい友人はこくりと頷いた。
　ホッと胸を撫で下ろす。
　目の前に立つ、ラッセルの友人。
　付き合いは中学生の頃で名前は――海道という。
　髪を金髪に染め、真ん中わけショートの髪。体型は小柄。
「久しぶり。相変わらずちーせーな」
　笑えば、余計なお世話だと返される。何気ないやり取り。
　変わらない反応に安心した。
　けれど変わらないからこそ痛んだ。
「……なあ俺、明るくみえるよな？」
　今の自分が彼にどう映っているのか。
　秘めた心は罪悪感を宿すけれど、どうしても知りたくて。
「俺さ……海道みてーになりたかったんだ。周りの人間が独りでに集まって、
　太陽みてーに場をぱっと明るくする意志の強い、負けん気が強い人になりたかった」
　ラッセルから見た彼はとても輝いていて、憧れていた。
　あんな風になれたらと、いつも、いつも。
　海道は、お前変わったな――そんな風に、ちょっとだけ茶化すように笑った。
「あはは、昔の俺って何にもしらねー箱入り息子で純真で、臆病すぎて置物みてーだったもんな」
　昔の自分は線を踏み越えることなんて出来なかった。
　いつも影で、息を潜ませて生きていた。
「お前が俺の絵をみて、話しかけてきてくれたおかげで、俺は――、」
　友ができて、楽しい時間を貰った。
　でもそれを壊したのもラッセル自身。
　仲間内で拗れ、逃げてしまった過去――あの時から、友人との時間は止まっていた。
　罪悪感が胸を刺すけれど、でも。
　謝るのはきっと今。

「人間関係が壊れて、逃げて、ごめん……」

　俯くラッセルを友人が責めることはなかった。
　木彫りは？　と言葉が降る。
「…木彫りは続けてるよ。趣味で」
　良かった、と安堵したようにまた友人は笑う。
　そして自分は絵の道に、美大に行くのだと語った。
「親と同じ医者の道いいのかよ」
　ラッセルはぽつりと零すけれど。
「……わかってる」
　そう解っていた。友人の瞳はまっすぐで、迷いなんてなかったから。
（きっと遠回りしても行くんだろうな）
　羨ましい。直向さが。
　だからこそ思う、自分も負けてられないと。
「挫けんじゃねーぞ！　……俺も、がんばる。絵はわかんねーけど、新しい友達と生きてみる」
　旧友への鼓舞と約束と。
　誓いは互いに突き出した拳に込める。

　今度は逃げない。
　辛いことがあっても。
　挫けそうになっても。
　
　今の自分はもう、大切な人を見つけているのだから。

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