茜空の向こう側｜リアクション

茜空の向こう側

◆皆の為のヒーローに

　夕焼けが夜に変わったその瞬間、訪れたその場所。
　何故迷い込んだのか、何故ここに立っているのか。
　風雲児轟は焦る様子もなく、辺りを見回した。
　誰もいない、物音も聞こえない。
　けれど光景は自分がよく知っている場所。
　何処かから切り離されたような感覚を、轟は身体で感じていた。
　
（また変な空間にきちまったみてぇだが、テオか？）

　不思議なことに自らを巻き込む存在に、轟は心当たりが有った。
　その名を呼ぶ、けれど返答はない。
（テオ……じゃないのか？　……とにかく調査だな！）
　切り替えは早く、轟は自らのろっこん――戦衣着装で、自作のヒーロー『ザ・ストレイト』の姿を取った。
　危険な場所でない保証はない、ならば警戒はすべきだ。
　しかし警戒を強める程に、感じるのは妙な懐かしさなのだ。
「……そういえば、小さい頃はこんな時間までヒーローごっことかして遊んでたっけ」
　何年か前まで有った空き地。
　確かこの辺だったよなと、懐かしげに見れば、
「……あるじゃねえか」
　そう今、目の前にあるのだ。
　今はもう有るはずのないその場所が。
　――なんで？　そんな当たり前のように出てくる問に、答えは返らない。
　けれど、彼も止まることはない。
「とにかく行ってみるか！」
　隅っこの草。
　奥に置かれた土管。
　全部あの頃のまま、記憶のままで、ハッキリと思い出せる。
　近寄ると土管の上に何かが置かれているのに気がついた。
　それも有るはずのないものだった。
　当時の轟が、宝物として大切にしていたヒーロー辞典とアメコミ。
（これが、なんでここに！？）
　驚かないはずはない、でもついページを開いてしまう。
　そうしてヒーローに憧れた自らの起源を思い出していく。
　ヒーロー辞典の中で輝く日本のヒーローたちを見てヒーローのカッコ良さに目覚めた。
　アメコミを読んで、外国のヒーローの環境のリアリティある残酷さとシビアさにショックを受けたことも。
　けれどそれもきっかけだった。
『ヒーローは正義を名乗ってかっこいいだけじゃだめだ！』
　幼いながらも、彼のヒーローへの価値観は変わっていったのだ。
　それは子供たちが行うヒーローごっこにも勿論反映されたのだけど。
（強調しすぎて顰蹙買ったなぁ……）
　苦いような、けれどそれも思い出。
　あの頃から自分は変われてるだろうか。　
　独りよがりな正義を叫ばず、本当に皆のためのヒーローになれているだろうか。
　考えもする。
　誰かを救うということは、決して自分本位であってはいけないのだ。
　同時に気がつく。
（でも、それを決めるのは俺じゃないよな）
　結果は後から。彼が助けた人が思うことなのだ。
　あれは――な、ヒーローだったと。
　その部分に何が入るかはきっと、轟の行動次第。
　だから今はだから今は信じた道を一直線に。

　起源に触れ、初心に返る。
　決意は改めて。
　そう、自らの目指す『ヒーロー』で在るために。