茜空の向こう側｜リアクション

茜空の向こう側

◆会えるから
　
　茜色は昔を思い出させる色。
　今日は綺麗な夕暮れ、赤々と燃えながら空を染めている。
　望月神無は夕焼けを振り仰いだ。
　眩しさを腕で遮り、漏れたその色を懐かしく眺める。
　思い出をように思考に耽ければ、それはとても懐かしいものだ。
　視線は下へ、道を視界に入れながら歩く。
（姉ちゃんや義理兄貴と一緒に歩いて帰ったりしてたっけ）
　こんな道を確か、一緒に。
　辿る、辿る。思い出と一緒に、道を。
（あいつは……）
　辿る先、ある人物を思い出した、思い出と一緒に浮かぶ人物。
　それを浮かべて直ぐのこと。
　歩いていたの道はいつしか途切れ、下りるだけの階段となっていた。

（こんな道の先に階段……？）
　
　本来ならば有るはずがない。
　こんな螺旋状に降りていくだけの階段など、神無は知らないのだ。
「……ってなんだこりゃ、」
　夕焼けは空では無く壁に、夜が灯りを伴って続いているだけだ。
　どうやら自分は変な所へ来てしまったらしい、それだけは解った。
　正直、不思議な経験は初めてではない。
　だからひどく焦っているわけでもなかった。
　――次の瞬間までは。
「この島に来てからおかしなこ……え？」
　いつしか歩いていた参道商店街の道で、ふと誰かとすれ違う。
　兎の着ぐるみを頭に被った、Ｔシャツとジーパン姿の子供。
　年齢は正確には解らないがおそらく、十四、五歳といった所か。
「なんで……なんで、お前が……」
　その先の言葉が出ない。
　喉に何かが詰まったように、絶句してしまうだけだ。
　神無が手を伸ばすも、その先の人物はそっと神無から離れた。
　言ってしまう、言ってしまう。
　それは神無の動揺を引き摺り出した。
「……あっ、ま、待て！　頼む、待ってくれ！！」　
　懸命に絞り出し、微かに掠れた音は気にせず追いかけた。
　あれが、探していた『あいつ』だとしたら――
　見失わぬように、追い続けた。
　ある道の曲がり角、ようやくその手を掴み捕まえる。
　対象は背を向けたまま振り返らない。
「つ、捕まえた……」
　呼気は荒く、数秒は苦しさもあったが、それでもその手は離さずにいた。
　相手も無理に腕を振りほどくことはしなかった。
「お前は――なのか。いや、幻なのか？」
　尋ねた言葉に、返答はない。ただ――。
「もういいんだよ」
「え……？」
　そんな言葉だけが降るから、目を丸くして神無は顔を上げた。
「僕たちを探さなくていいんだよ、もうすぐ会うことが出来るから」
「……もうすぐ？」
「そう、もうすぐ。だからね、……寂しい思いをしなくていいんだよ」
　会えると言うのだ。
　ただ染みていくだけだ。嘘も感じられない、確証もないのに。
　神無は泣きそうな顔をしてその言葉に頷くことしか出来なかった。
　ねぇ、と目の前の人物の言葉が続く。
「今度は君が幸せになる番だよ。……幸せになって、神無」
　それが願いだと、告げられる。
「だから待ってて、くれる？」
「ん……まってる、まってる！　待ってるから！！」
　――だから、また。
　泪は、地に落ちる。
　会える、だから待ってる。
　これは再会の約束だ。

　神無がある話を聞かされるのは、帰って直ぐのこと。
　姉のお腹に新しい命が宿ったと知らされるのは、帰宅してから。
　
　次は、君の番。
　また、――の声が聞こえた。