月夜に届く笑い声｜リアクション

月夜に届く笑い声

　逆巻天野は黒い法衣を身に纏って寝子ヶ浜海浜公園に訪れた。
　歩道には背中を向けた女の子がいて一人遊びを続けているようだった。不安定な片足で跳ねて両足で立ち止まる。動作の度に腰のリボンが蝶のように軽やかに羽ばたいた。
「……佐々先輩の言ってた通りか」
　天野は近づいて軽く咳をしてみた。スカートの裾を広げて女の子が振り返った。
　相手は小さな子供。自然と表情が緩んでくる。
「やあ、こんばんは。君は一人なのかい？」
「ううん、違うよ」
　女の子は公園を指差した。
「ああ、公園にお友達がいるんだね」
「一緒に来て」
　女の子は先に歩き出した。天野は寄り添うようにして付いていった。
　公園の中に入ると、子供達が活発に動き回る姿があった。女の子は次々と指で示した。何人かが気付いて駆け寄ってきた。遊ぼうよ、と挨拶のように言われた。
　天野は微笑みながら周辺に視線を飛ばす。似たような状況を目にすることができた。
「……僕も遊ぶほかないか」
　喜びの声を上げる子供を目にして、気持ちはわかるよ、と天野は憂いを帯びた目で呟いた。
「何して遊ぶの？」
「もしもの時の為に用意していたロープがある。これで大縄跳びが出来るよ」
　やるやる、と始める前から子供達は跳びはねた。
「片方は僕が回すとして……」
　天野は木の幹にロープの一端を結び付けた。試しに回してみると歪な楕円を描いた。
「これで跳ぶのは難しそうだね」
　途端に子供達の機嫌が悪くなる。出来ない理由を口々に聞いてきた。
「子供の君達には大変だからね」
「拙者ならば大変ではござらんよ」
　天野に零が声を掛けてきた。
「君はそれでいいのかい？」
「級友ではござらぬか。拙者を頼られよ。装束は白と黒。取り合わせとしても悪くはないでござる」
「そう、なのかな。でも、助かるよ」
　天野と零がロープを回した。子供達に合わせて速度を調整。飛び入りで参加する者がいて結構な人数で盛り上がる。
「意外と体力を使うでござるな」
「涼しい顔で言われても、説得力がないよ。僕は掌が限界かも、ね」
　天野はロープを回しながら苦笑いで返した。
「真央ちゃんも跳ぶのだ！」
　走ってきた真央は中央から突進して狙ったかのようにロープに引っ掛かる。なんでなのだー、と夜空に叫んだ。
「こんな救いの女神もいるんだね」
　その場に天野はへたり込んだ。子供達が集まってきて同じように座った。
「面白い話でもしようか。僕は語ることが好きでね。その代わりに君達の話も聞かせてくれないかな。例えば、ここにいる理由はどうだろう」
　子供達は一様に口を噤み、難しい顔付きになった。なんでかな、と口にして深い思考に嵌り込んでいった。
　零は天野に近づいて、こっそりと耳打ちした。
「拙者の時と同じでござる。記憶が曖昧になっておる。相当の年月が経っているのかもしれぬ」
「そのようだね。この島で昔に大きな事件でもあったのかな」
「拙者の調べでは、そのような記述は見つからなかったでござる」
　一通りの話を聞き終えて天野は軽やかに手を打ち合わせた。子供達は目が覚めたかのように顔を上げる。
「難しいことを言ってごめんね。お詫びに僕が話をしてあげるよ」
「どんな話なの？」
「聞きたいな」
　子供の興味を十分に引き付けて、天野は口を開いた。
「この島に残された伝説の話をしよう。それと僕が経験してきた話でもいいかな」
　子供達の鎮魂となる話が天野によって語られていった。