月夜に届く笑い声｜リアクション

月夜に届く笑い声

「今日の猫集会はどこなのだ？」
　身軽な赤いジャージを着込んだ後木真央が声を掛けながら四方に目を向ける。僅かな暗がりにも突っ込んでいって、レーダーのように跳ねた髪を左右に揺らした。
「ここにもおネコさまはいないのだ。どこにいるのだ？」
　海岸を横切って寝子ヶ浜海浜公園にやってきた。木や繁み等、隠れる場所は多くある。
　真央の細い目が開いた。瑪瑙のような緑の瞳で足音を忍ばせる。
「おネコさまの好きな煮干があるのだ」
　人差し指くらいの煮干を摘まんで手を小刻みに動かした。公園を見ながら進んでいく。
「ふぉおぉぉ？　こんな夜中に遊んでる子がいっぱいなのだ！」
　声を聞き付けて子供が集まってきた。真央の手にした煮干を不思議そうに見つめている。
「みんなも『おネコさま探索しようツアー』の参加者なのだ？」
　子供達は一斉に顔を横に振った。あっちで遊ぼうよ、と公園の方に目をやった。
「事情はわからないが、わかったのだ！　真央ちゃんもみんなと一緒に遊ぶのだ！　がおーを呼んでおネコさまの素敵さを伝えるのだ！」
「あのぉ、がおーってなに？」
「いい質問なのだ！　ここは人が通るのでダメなのだ。答えは公園の中で教えるのだ」
　真央は子供達を引き連れて隅の方に陣取った。子供達には座るように指示した。
「触れ合い猫教室の始まりなのだ！」
　真央は立った状態で高らかに宣言した。子供達は戸惑うような表情で疎らな拍手を送った。
「静粛に、なのだ！　すぐに始めるのだ！」
　真央は少し緊張した面持ちで、招き猫が両手を上げている姿勢を取った。
「にゃにゃにゃがおー！」
　その叫びを受けて、がおーが忽然と姿を現した。暴れる様子はなく、当然のように真央に抱えられていた。
「これが真央ちゃんのおネコさま、がおーなのだ」
　あまりの出来事に子供達の反応が遅れた。数秒後に大騒ぎとなった。
「なんで猫が出て来たんだ？」
「どうやったの？」
「すごくてびっくりした」
　真央はがおーを抱えた状態で腰を下ろした。そこで実演を交えた説明に入る。
「おネコさまの爪は見えないのだ。指で押すと、こんな感じで飛び出すのだ」
「初めて見たよ」
　周囲の子供も頷いた。真央は目を細めて話を続けた。
「今度は首筋とか頭とかを撫でるのだ」
　真央は言いながら手を動かした。がおーは両目を閉じた。
「この目は気持ちいいと言ってるのだ。でも、シャーって鳴いたら怒ってるから、すぐ止めるのだ」
「わたしもしたいな」
「ボクもなでてみたい」
「もちろん、いいのだ」
　子供達はこぞって手を出した。頭と首筋は直後に一杯となり、全身にまで及ぶ。
　がおーは子供達の手の中に埋没した。僅かに覗いた耳に真央は口を寄せて、がおーがまんするのだ、と囁いた。
　全身を撫でられたがおーは真央の腕の中でぐったりとしていた。両目を閉じている姿は修行僧のようにも見えた。
「次はみんなのしたい遊びをするのだ」
　子供達の目は、がおーに向かう。
「もっとなでなでしたい」
　女の子の声に、がおーはビクッとした。拒否をするかのように身体を左右に振動させる。
「困ったのだ～」
　言葉とは裏腹に真央は朗らかな声で言った。