【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆｜リアクション

【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆

　光はかなり距離のある道標な灯火と手元の提灯のみ、おまけに星や月明りの光も無いとくれば、
　この散策コースは参加者の予想以上に暗い。
　それを風情と捉えるか、恐怖の対象と捉えるかが人によって分かれるところであろう。
　ここに、見事に正反対なるペアが居たり。
　――　街から離れっとこんな暗かったんだな。だが裏路地とかと全然違って……いいなこういうのも。
　――　意外と……暗い……！
　余裕な表情で、三夜湖や寝静まった木々たちをのんびり視界に入れる玖珂新。
　実は怖がり。虫やお化けを苦手とする岡瀬結華。
　草むらからまだ活動中の虫の音などがする度、びくぅ！　と身体強張らせていれば、さすがの新も察するというもの。

「……あの、大丈夫っスか？」
「だ、大丈夫ですよ、ありがとうございま、ひゃあ！」

　大きめなガサガサした音が響いた途端、強がりの甲斐無く結華は新の腕へ縋るようにがしっと掴む。
　――　大丈夫じゃなさそうだな、苦手なのか。
　強い光持つあの瞳が、すっかり弱って今にも潤み出しそうに見えれば。

「怖かったら、腕掴んだままでいいっスよ」
「そ、そんな、本当に大丈夫で、歩きにくくさせちゃったら申し訳が、ぴゃ！？」

　説得力無し。
　提灯の明かりにキランッと光った、野良ネコさんの瞳が横切っただけで跳び上がる始末である。
　結華、早々に観念を申し上げた。

「す、すみませんやっぱりこのままで……！！」
「っス。得体の知れないものならとにかく、なんかあったら俺がなんとか出来るんで。
　腕っぷしには自信があるんス。さすがに熊とか出たら分かんねーっスけど」

　……寝子島、そういや熊っているんスかね、と大真面目なトーンで語る新に、結華の強張りが緩んだ。
　ふふっ、と小さく笑いが漏れてから。

「あ、ありがとうございます、一緒にいていただけると安心します、ね。
　助けていただいてばかりで恐縮ですが、その、もう少しこのままでお願いします……！」

　どうしても恥ずかしさは拭えないものの、心遣いと優しさに今度は素直に結華の口が動いていた。

「……あー。むしろ俺から離れんで下さいよ、俺らが逸れたらもっと怖いことになると思うんで……」
「こっ……」
「ぁ、えっとちがくて」

　やべぇ、余計怖がらせてどうする俺！
　そういえば（なんでか）男（後輩）には頼られた事はあれど、女の子から頼られた事が無いかもしれない。
　そんな事実に思い至れば、相手の真っ直ぐ頼って来る言葉が嬉しい反面、言い方に戸惑い出す新が。
　――　女子への気の遣い方なんてわっかんねーし……！
　近距離で今の新の顔を覗き込んだらば、盛大にガンを飛ばしている面構えになっていることだろう。
　本人は真剣に悩んでいる状態であるわけだが。
　しかして、提灯と彼の腕、それらを持つ手に更に力を込めて前を見据える結華には、逆にその言葉がむしろ温かいものに感じられた。

「りょ、了解しました！　絶対に逸れません……！」

　全く自身が言ってしまった言葉に気にする様子無く、正直に返してくれる彼女に少々面食らうも。
　こういう女子もいんだな……なんて。
　何かを学ぶ新もいるのだった。