【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆｜リアクション

【七夕】灯りをつけましょ提灯に☆

「山で迷い人となった日を思い出すね！」
「ゲッフーン！　いやぁっ、星が綺麗……って星見えねーな！」

　爽やか笑顔で全く悪気なく話題繰り出した花椿涼太郎に、押し寄せそうになる罪悪感を咳で吹き飛ばしては空見上げた野菜原ユウが、思わず素で突っ込んだ。
　見事なまでの曇りっぷり。
　先程までは、時折雲の切れ目もあったはずなのが、現在厚い雲が隙間なく夜空を埋めている。

「おや、こんなに暗いと僕の美しさを堪能できないよね！　さぁ、神々しい僕を見モガァ」
「まて。それは待て花椿……目が眩んで逆に進めなくなる」

　伊達に涼太郎の輝きを間近で体験していないユウが、発動条件など知らなくとも直感から涼太郎の口を塞いだ。
　
「そうか！！　まばゆくなり過ぎるのも困りものなんだね！
　確かに美しさのあまり目を開けていられないと、夜の妖精さんだって浴衣姿の僕を見れず残念になってしまうものね！」
「分かってくれればヨシ！」

　成り立たなくなりそうなものである会話、意外と成立しているのは相性の良さかもしれない。
　もうじきゴールだろうか、という竹燈籠が左右でちらちらと輝く場所を視線の先で見つけたユウが、
　ふと何かに気付いた。

「俺らペース早かったんか。前のペアに追いつきそうだな……」
「楽しくてさくさく進み過ぎていたね！　……やや、あれは千堂くん、かな？」

　次第に人影がハッキリしてくれば、向こうもこちらに気付いたように振り返って来た。
　千堂結が少し驚いた表情と照れたような頬色になりながら、それでもぺっこりと会釈してくれる。

「花椿くん、野菜原くん、こんばんは」
「やぁ千堂くん！　いつもうちのお店ご利用くださりありがとう！　お連れ様もこんばんは！」
「おう」
「バンワだぜー。なんだなんだ、ここは織姫と彦星ペアか～？」

　ユウ、あくまで軽く、『女の子とペアで羨ましいぜえええ』という妬みはあったかもしれないがあくまでも軽く、述べたつもりだった。
　しかして、二人でいるところへ声をかけられた経験値が恐らく大変浅い結、ユウの言葉に湯沸かし器の如く
　瞬間沸騰して顔がイイ感じに熟れた。
　幸いか、暗いおかげで涼太郎やユウは気付かなかったようだ。
　恋人の表情や空気の変化くらいお見通しな鵙海甫に至っては、『うわ今結の顔覗き込みてぇ！』という心中で悶えか笑い堪えてか、こっそり肩を震わしていたりするわけだが。

「ああ！　これもきっと僕の浴衣姿が少しでも多くの人の目にとまるようにという巡り合わせだね！
　勿論いいとも！　さぁッ、今晩の情緒あふるる僕を見もがぁ」

　唐突にユウが、再び涼太郎の口を塞ぐ。
　きょとんと見つめる甫と結の視線を受けつつも、どうやら二人の空気を読み取っちゃったユウが、こそこそと涼太郎へ耳打ち。

「花椿っ、俺らは先にゴールへ向かうぞ！」
「え？　そうなのかい？　どうせならみんなでご一緒に僕の浴衣を愛でつつゴールしても」
「俺らはお邪魔だ！　そうに違いない！　ちくしょうリア充めおぼえてろぉお！！」

　半ば引きずられるようにして、涼太郎が手を振りながらユウと共に退場するのを、結はポカーンと見つめ、
　甫は察してありがたそーにその背中を見送っていたとか。
　なんだかんだ足並みも合いながら、涼太郎とユウは二度目の山迷子となることもなく、こうして無事（？）
　散歩を完遂するのであった。