かわいい探し｜リアクション

かわいい探し

　シーサイドタウンのマンションに陽光が降り注ぐ。アケーチ・タッマーキは窓から入る光を利用して衣類の虫干しをしている。セーラー服、メイド服、褌や際どい下着がずらりと床に並べられていた。
「何という壮観な眺めなのでしょう、ふふ…！」
　黒いスーツで決めたアケーチは、前髪に隠れていない紫色の左目を潤ませている。
「見詰めていると、今すぐに着替えたい衝動に駆られますね」
　瞬間、アケーチは窓に目を移す。街の光景を神妙な顔で見続けた。
「おかしいですね。何が気になったので」
　言い終わる前に何かが横切った。白い雲にしては早すぎる。
「そんな、まさか！？」
　一気に感情が高ぶった。アケーチは窓に駆け寄り、全開にした。顔を突き出し、髪を乱して方々を探す。
「……あぁ、幻ではなかったのですね……ゼリンたーん！」
　身を乗り出したアケーチは青い空に向かって大きく手を振った。飛び回っていた白い物体、ゼリンが大きく旋回した。
　円らな瞳をアケーチに向ける。大きく口を開けて笑顔で飛んできた。
「ぷにょー！」
　アケーチは両腕を広げて待ち受けた。しっかりとゼリンを抱き締める。
「ぷにょにょ～」
「再びゼリンたんに会えるとは！　もしかして私に会いたくなったのですか？」
「ぷ～にょ」
　ゼリンは笑顔のまま、アケーチの胸に頬擦りをした。泣きボクロのような紫色のハートが愛らしく目に留まる。
「あぁ、そうなのですね。光栄の極みです、歓喜の震えが止まりません…ふふふ！」
　お互いが甘い抱擁の時間を過ごす。アケーチは思い出したようにゼリンに話し掛けた。
「仮住まいの簡素な部屋ですが、おもてなしはできます。あんみつなどはいかがでしょうか」
「ぷに？」
　ゼリンは羽を畳んで身体を横に曲げた。
「あぁ、そうでしたか。ゼリンたんはあんみつ初体験なのですね。わかりました、すぐにご用意いたします。奥深い甘味の世界を思う存分、羽ばたいてください、ふふふ！」
　アケーチはいそいそとキッチンに向かう。その間、ゼリンは部屋の中を飛び回った。
　程なくしてアケーチが小躍りするような状態で戻ってきた。
「ゼリンたん、アケーチ特製のあんみつをお持ちいたしました！」
　涼しげなガラスの器にあんみつが収まっていた。寄り添うように白玉が入れられていた。抹茶のアイスも加わる。最後はホイップクリームが個々の存在を優しく抱き、一体感を醸し出していた。
　ゼリンは床に降り立った。差し出された器に顔を突っ込むような姿で躊躇い、アケーチに向かって小さく口を開けた。
「あーんをご所望なのですね…ふふふ！」
　アケーチはスプーンであんみつと白玉を掬った。ゼリンはおちょぼ口になって咥えた。
「いかがでしょうか」
「ぷにょ～」
　ゆらゆらと身体を揺らす。
「夢心地の味なのですね。私もゼリンたんの愛らしさを見ることができて、夢のようですよ、ふふふ！」
　アケーチは新たな一杯をスプーンに盛り付けるとゼリンに与えた。愛らしい反応を見ると自身も無上の喜びに打ち震えた。
　器の中身が無くなった。平らげたゼリンは機嫌よく羽を動かしていた。
「本当にゼリンたんに出会えて、私は幸せ者です。会えない間は辛くて、このような物で寂しさを紛らわせていました！」
　アケーチは走り出す。ゼリンの縫い包みを手に戻ってきた。
　目にした途端、ゼリンは少し口を尖らせた。羽をバタバタと動かす。頬が僅かに膨らんだ。
「ぷにょ！」
「あ、あぁ、何という愛らしい焼き餅なのでしょうか。その愛情を丸ごと、食べてしまいたい！　私は何を口走っているのでしょうか！　狂気のド変態に天罰を与えてください！」
　恍惚の表情で身を捩らせる。ゼリンは心配した顔でアケーチの胸に飛び込んだ。
「あぁ、ゼリンたん、愛らしくて私はどうにかなりそうです！」
「ぷにょ～、ぷにょ～」
「大好きです、ゼリンたん！」
　心ごと、抱き締めるのだった。

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