かわいい探し｜リアクション

かわいい探し

　星ヶ丘寮の邸宅の自室に三宅葉月は籠っていた。大きな机の上にはパンフレットや冊子が山積みになっている。進路相談の時に担任にも話した留学先、フランスの国立美術学校に関する資料であった。学校に休みの許可を取って留学者を対象にしたセミナーにも通っていた。
　その決意は固い。根を詰めたせいなのか。表情には疲れが見て取れる。頭を左右に動かして大きく伸びをした。
　軽く息を吐いて資料に目を落とす。即座に目頭を揉んだ。葉月は開いていた冊子を閉じて着替えを始めた。
　白を基調にしたゴシックドレスで自室を出ていった。

　レース柄の日傘を差して葉月は歩いた。自ずと足は繁華街を避けた。静かな道を選んで進む。
　道の向こうに寝子ヶ浜海岸の防風林が見える。その先には空と海が混ざり合った青が覗いていた。
　葉月は足を速めた。緩くウェーヴの掛かった長い黒髪が僅かに弾んで広がる。緑色の瞳は艶やかに輝いていた。
　手前の信号は青だった。伸びやかな脚で渡り切る。続けて防風林を抜けた。
　葉月は止まらない。潮風に長い髪を靡かせて斜面を下りていく。
　少し速度が落ちた。日傘を開いた状態で砂浜に置き去りにした。進みながらブーツを脱ぎ捨てて波打ち際までやってきた。
　白い素足に波を受ける。少し表情が引き締まる。直後に肩の力が抜けた。
「冷たいけれど、気持ちいいわ」
　寄せる波を軽く足で蹴った。たまにスカートの端を摘まんで波から逃げる。波の境界を回りながら移動した。
　肉体が欲する動きを存分に与えた。
　その時、波に翻弄される物体を目にした。色はネオンブルー。丸っこい姿で波打ち際をコロコロと転がる。
　葉月は足を止めて、その物体を眺めていた。
「みゅー」
　見た目と同じく柔らかい声で鳴いた。円らな瞳を葉月に向けると跳ねるようにして近づいてきた。
「みゅみゅー」
　物体の口が僅かに開いて笑っているように見える。葉月は中腰になって手を差し出した。掌に頭を押し付けてきた。
「撫でればいいのかしら」
「みゅ～みゅ～」
　甘えるような鳴き声に変わった。
「……かわいいわ」
　少し目を見開いて自身の唇に指先を当てる。自分の言葉に驚いた様子であった。
「みゅみゅ！」
　元気に鳴いた。丸っこい物体は少し離れたところに移動した。葉月の方を向いて、その場で飛び跳ねる。
「みゅ！」
　葉月の戸惑いを察知したのか。今度は左右の動きを取り入れた。
「もしかしたら……」
　葉月は砂にめり込んでいた貝殻を拾い上げた。丸っこい物体は機敏な動きに変わる。
「そういうことね」
　納得した様子で貝殻を空に向かって投げた。
「みゅみゅー！」
　丸っこい物体は追い掛けた。驚異的な跳躍で貝殻を口に咥えた。着地すると急いで葉月のところに戻ってきて口を尖らせる。
「よく取れたわね」
　一言で貝殻を受け取る。丸っこい物体はちらちらと葉月を見ながら、そっと頭を突き出してきた。
「上手ね」
　ゆっくりと頭を撫でた。みゅ～、と脱力したような鳴き声が漏れた。
「みゅみゅ！」
　再び気力が満ちて丸っこい物体は離れていく。無心のような態度を見た葉月は貝殻を握り締めた。
　先程とは打って変わって大きく振り被る。
「いくわよ」
　遙か高みの青い空に向かって貝殻を投げ込んだ。葉月は走り出した。丸っこい物体と一緒に追い掛けた。
　何も考えず、身体が欲することを進んで行った。

　空の鮮やかな緋色がくすんだ色に変わる。葉月は日傘を肩に掛けて海を眺めていた。
　打ち寄せる波を目にして踵を返す。ブーツで砂を踏み締めて歩いた。
　一度、足を止めて空を見上げた。
「楽しかったわ」
　呟いて寝子ヶ浜海岸を後にした。

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あとがき

担当マスター：黒羽カラス
ファンレターはマスターページから！

寝子島の日曜日が終わりました。
皆さんのかわいいは見つけられたでしょうか。
神魂の影響を強く受けて驚くようなものを、
かわいいと認識したＰＣさんがいました。
記憶が失われることはないので翌日が心配になります。
強く生きていってください、と心の中で念じる私でした。

ＮＰＣのご指名、ありがとうございました。
猫がみ様は久しぶりの登場になります。口煩さは健在でした。ラブリーだったでしょうか。
メリーさんはいつも通りの毒舌で、ゼリンは今回も元気でした。
行動的な面々なので、またどこか（シナリオ）で会うこともあるかもしれませんね。

最後になりました。当シナリオに参加していただき、ありがとうございました。
皆さんのアクションのおかげでリアクションが完成しました。
あとは読み物として楽しんでいただければ嬉しい限りです。

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