かわいい探し｜リアクション

かわいい探し

　寝苦しいような温度ではなかった。寝付きも悪くない。
「何故だ」
　薄暗いマンションの部屋で朝比奈岳人は不満気な声を漏らす。もう一度、上体を倒した。布団の上に大の字になって瞼を閉じる。
　苦しげな顔になった。再び上体を起こす。顔に掌を当てて、それとなく溜息を吐いた。
　――今日は緋紅朱さんの買い物に付き合うことになっている。休日に会うこと自体、珍しくはない。過去には試合の応援や差し入れとかもあった。
　深い考察に入ったのか。切れ長の目が鋭くなる。
　――最初は戸惑った。接し方がわからなかった。今でも対応に迷うことはあるが、緊張することはない。一緒にいると安らぎというか、励みになっている。
「そうなのか？」
　自身の思いにポツリと疑問を投げ掛ける。
「緋紅朱さんは小さくて、良い匂いがして……可愛い」
　瞬間、顔が赤くなる。部屋の隅を睨み付けた。壁に立て掛けていた木刀を引っ掴むと大気を断ち割る勢いで振り始めた。
「無心だ。無心になるんだ」
　赤い顔のまま、岳人は木刀を振り続けた。

　星ヶ丘寮の邸宅の自室で緋紅朱赫乃は目を覚ました。部屋は黒いベールに包まれている。
「まだ、朝では、ないけど」
　ベッドからそっと抜け出し、明かりを点けた。格調高いクローゼットを開ける。ずらりと並んだ衣服を品定めするような目を向ける。
「これが、良い、かな」
　白い薔薇の刺繍の入ったネグリジェは黒いゴシックロリータの服へと変わった。等身大の姿見で服装を確認する。
「黒さが、目立つ、かな。もう少し、優しい、感じが」
　口にした途端、急に手を左右に振り始めた。赤くて長い髪が乱れる。
「別に、買い物に、付き添って、くれる、だけで、そう、朝比奈先輩が、荷物を持って、くれるって、本当に、それ、だけで」
　ほんのりと色付いた唇を閉じる。服を着替えた。白と薄いピンクが目に優しいゴシックロリータを身に纏う。
　姿見に映る赫乃は幸せそうな笑みでくるりと回った。
「これに、決まり、だね」
　無邪気な様子で走り出す。ドレッサーに並べられた香水の一つを摘まみ上げる。首筋と手首に付けた。
「良い、薔薇の香り、なんか、今日の私、少し、ヘン、かな」
　赤い瞳に黒い睫毛が掛かる。
「もしかして、これって、デート、になる？……」
　赫乃の白い頬に可憐な赤い薔薇が咲いた。

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