黒い指先　――三つ目の願い――｜リアクション

黒い指先　――三つ目の願い――

●罪

「待って、これじゃ死んじゃうよ！　……皆の気持ちはわかるけど。
　よく考えて欲しいんだ。こんなクズ男さん43歳・独身を殺したって、殺人は殺人だよ！
　人を殺した時点で、こいつと一緒だ。僕はごめんだね、自分がそうなるのも他の人がそうなるのも」
　蜘蛛の糸に吊るし上げられ、見る見る顔を紅潮させるゴローに、新井米太郎は慌てて介入した。
「三下は俺が、何があっても殺させない！」
　風雲児轟も、そう息巻いた。
「大丈夫だよ、殺しゃしねぇ」
　ジニー・劉はもがいているゴローを見上げ、暢気に紫煙をくゆらせている。

「私にお任せください、三下様の能力を封じてご覧に入れます」
　アネモネ・アドニスが育てた花で作った香水の香りを、ゴローに噴き掛ける。彼女の【沈黙の香水】は、香りが残る限り互いのろっこんを封じるはずだ。
　しかし相手は軽度とは言え、暴走していたのだ。ようやく娘を正気に返した、毒島柘榴は念のため、飴を口に咥えてゴローに手刀を入れる。柘榴の【オグンの鉄剣】も、対象のろっこんを一時的に封じる。

「さて、ちとこいつに喋らせたい。色々外してもらえねえか？」
　柘榴に要請され、蜘蛛の糸が、接着剤が解除された。轟は用心深くゴローの隣に立ちながらも、持参したカセットテープをセットする。
　轟もゴローに罪を洗いざらい、白状させるつもりなのだ。
「名前、そして今まで関わった事件について、動機や方法を全部話してもらうぜ。
　それ以外一切喋るな。余計な事を言えば……さっきの一撃を喉に叩き込む！」
　轟が右拳を構えて見せ、ゴローは震え上がった。
「今死ぬか、生きて罪を償うか。どっちが自分にとって最良か、考えるんだな」
「言う、何でも言うから……助けてくれ、殺さないで……！」
　もう傲慢さは消えていた。土下座し床に額をこすりつけるゴローの卑屈さに、如月庚は激情を抑えた。

「屑……助ける代わり、認めろ。
　てめぇは“ろっこん”という新しい催眠術で、被害者達を洗脳、事故を起こすように仕向けた……。
　違いないな？」
「え……？」
　柘榴の言う“催眠術”、その発想にゴローの表情が曇った。
「なんだそ……ぐあっ！」
「余計な事を言うなと、言ったんだ！」
　轟の鉄拳が、またしてもゴローの鳩尾に炸裂した。

「厄介なのを敵に回しちまったな？
　未央とさとみだけじゃねえ、今夜を境に全てのもれいびがアンタを付け狙い、牙を剥く。
　法で裁けねえ人殺しを、死刑より酷え“私刑”にかけようと追い回す！
　自宅も面も名も割れてる、あんたに逃げ場はねえ」
　ジニーが囁いた。
「助かりたきゃ、警察に出頭して保護してもらえ。刑務所の中が一番安全だ」

　喧騒の中、大田原いいなは落ちていた釘打機を拾った。壊れている様子はない。
　ただ、持ち去られた時には安全装置が破壊され、トリガーを引けば釘を発射する仕様だったはずが、今は安全装置も直され、物が直接釘打機に触れていないと用を成さないという、従来の性能を取り戻していた。
　無論、物が独りでに壊れたパーツを修復出来るはずもない。それを直せた人間は、一人しか居ない。