黒い指先　――三つ目の願い――｜リアクション

黒い指先　――三つ目の願い――

●エピローグ１　～オモルの腕～

　八神修は事件を公にしないよう提言したが、ゴローが望んだ事もあり、やがて廃墟にパトカーが到着した。
「今度またその力を使って罪を犯してみろ！　俺が再びお前の前に現れて、喉を潰す！」
　風雲児轟が一喝した。
「今回、お前は私たちに出会えて運が良かっただけだ。お前が死のうが生きようがどうでもいい。
　同じことがあっても、二度は助けには来ないだろうな」
　氷華・クルバトフも念を押す。

　やって来た警察官の足元にしがみついて、ゴローは泣き続けた。
「来てくれて、ありがとう！　ありがとう！　ありがとう！」
　その様子に如月庚と御風不二夫は、同時に舌打ちして互いに顔を見合わせた。

　意識を取り戻した未央のポケットから、雪見大福は臓器提供意思表示カードを取り出した。
「……何考えてるのだ、未央。まさか死ぬ事まで考えてるのか？
　目が見える様になっても、そこに未央の姿がなかったら、お母さんは一人ぼっちになっちゃうのだ…っ！」
　李小麗は未央の腕に、しがみついた。小麗が思い出すのは、セブン事件で関わった滝川少年の事だ。
　黒依アリーセも気遣わしげな視線を向ける。
「貴方の目を通して見る世界に、貴方の姿が無い。お母さんは、どう思うかしら？」
「もう……こんなの嫌なのだ。
　帰って来て欲しい人が、帰って来ないなんて……そんな寂しい思いを、お母さんにさせたらダメなのだ！」
　涙ぐむ小麗に、未央は困ったように首を傾げる。どうやらうまく理解出来ないようだ。
　彼の家族の生活は、これまでずっと母中心で回っていたから。
「自分を蔑ろにするな。それに……自殺者の臓器は、親族優先で提供できないんだよ」
　大福はため息と共に、それを告げた。
「そうなんだ……ちゃんと調べたつもりだったのに」
　掠れた声で無念そうに呟く未央に、こいつは情操教育が必要だと確信しつつ、毒島柘榴は提案した。
「うちの娘は癒しのろっこんを持っていてな……もし良かったら、その力をお袋さんの目の治療に使ってやる。
　……ついでに千代子夫人の病気にも」

　機があったら頬の一つも張ってやろうと思っていた吉祥寺黒子だが、未央が余りに血に汚れていたので、逆に心配した。
「ひっでえな！
　何も、ここまでするこたねぇだろ！！　これだからもれいびって奴は、いけすかねぇんだよ」
　憤る黒子に、未央は戸惑いがちに告げた。
「貴女も、もれいびのようだけど……」
「え……？」
　予想だにしない未央の言葉に打ちのめされた、黒子の動きが止まる。
「俺がもれいび……、冗談だろ？」
　空笑いする黒子に、未央は答えずただ目を逸らした。

「嘘だ……俺が両親の仇と同じもれいびだなんて……畜生……！」

　遠ざかっていくパトカーを見送り、常闇月は来た時と同じように、音もなく去った。
　片手落ちもあった。だがこれは誰も死なずに済む物語、その結果は決して悪くない。

　そして後日、約束は果たされる。毒島林檎の【オモルの腕】により、未央の母は完全とは言えないまでも、日常生活に支障のないレベルにまで、視力を回復する事になる。
　その日はアリーセも付き添い、人目を封じたり、それを“おまじない”と信じさせる事で貢献した。

　視力を取り戻した母の喜びは、言うまでもない。
　涙を流す彼女の姿に、林檎もまた、涙ぐんだ。

　千代子夫人については病状が重篤であり、多少マシになった程度であったが。
　もしも……もしもこの治療を根気良く続ければ、本来の寿命まで生きる可能性もゼロではないだろう。

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