【これまでのあらすじ】
4月。車が海中に飛び込み、もれいびの少女・さとみを残し両親が死亡する事故が発生する。さとみのろっこん【魂封じ】により、死後も動き続けた母は、この世を去る間際、事故前に怪人セブンを名乗る男と接触した事実を告げた。
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魂封じより>
5月。子供に声をかけて回る変態男の噂が流れる。また同時期、自ら怪人セブンを名乗り、もれいび狩りを実行する少年の噂が発生していた。
調査に乗り出した寝子高生は、変態男を取り逃がすものの、彼がもれいびであり、ろっこん【三つ目の願い】を持つことを知る。男は警戒心の薄い子供達を狙い、自身のろっこんを悪用している愉快犯だった。
一方、もれいび狩りの少年・未央は、盲導犬ルクスが死亡した事故にセブンの“偽者”が関与している可能性を考え、自らもそう名乗りもれいび狩りの噂を拡散させる事で、セブンへの挑発と、懸念される“偽者”の炙り出しを行っていた。
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黒い指先 ――透明な檻――より>
6月。自らの行いで子供達の接触事故が起こっていた事を知った未央は、看護士の拝島 薫とコンタクトを取る。【マダムキラー】の能力を持つ彼女は、未央に協力し、星ヶ丘のマダム達から情報を得ていたが、三下 千代子夫人との出会いで、偽セブン・三下 ゴローを突き止める。
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マダムキラーより>
【本編】
●夜
吉祥寺 黒子は近頃ねこったーで流れた噂に、気が気ではなかった。
それが魂封じの少女・さとみの情報だったからだ。
情報発信者の察しはつく。何のために、それがばら撒かれるのかも。
あの夜、電話越しに会話をした
もれいび狩りの少年だ。
さとみを気遣ってか、それとも自分に都合よくターゲットを誘導するためなのか。
情報は微妙に歪められて拡散され、そしてすぐにネットの海に埋没した。
しかしあいつが動き出したんだ、という確信が黒子にはあった。
今回は本気だろう、胸騒ぎがする。
「母親がどうとか、言ってたんだっけ?
あいつも もれいびが起こした事件の、被害者の一人なんだろうけどよ。
さとみちゃんに何かあったら、どうすんだよ……ったく!」
そしてある晩、月が中天に差し掛かる時間。
逆巻 天野の携帯に着信があった。
応じれば、先日
マダム千代子との食事会で何かあった時は連絡をくれと依頼していた、看護士の拝島 薫だった。
「拝島さん? どうしたの、こんな夜遅く」
『天野君、実はさっき千代子夫人に聞いたのだけれど。
千代子夫人の息子……ゴロー氏と連絡が取れないらしいの』
苛立った様な口調に、天野は首を傾げる。
「えっと、話が飲み込めないんだけど、それはどういう……?」
『子供達の接触事故があったでしょう?
あれに関わっていた男の子とも、少し前から連絡が取れないの』
「!? ……詳しい話を、お願いできますか」
同じ頃。
黒子の携帯にも突然の着信。潜められた声は、さとみだ。
『黒子お姉ちゃん? あのね、今
さとみ、パパとママを殺した悪い人を、懲らしめに来てるんだよ』
悪い予感が現実に変わり、心臓が跳ねた。
「な、なんだって!? さとみちゃん、一人か? 今どこに?」
『ううん、未央お兄ちゃんと一緒だよ。さとみ
他の人には見えない場所に、隠れてるし大丈夫』
「未央? 誰だ……え、見えない場所? と、とにかく迎えに行くから、そこでジッとしてるんだぞ?」
さとみの携帯は、黒子が渡したものでGPS機能がついている。
「チッ、遠いな……誰でもいいから、近い奴!! さとみちゃんを助けてくれ……!」
自身の携帯を繰り、黒子が皆に助けを求める。
さとみの現在地は、シーサイドタウンの再開発から取り残された暗黒エリア。
――
シーサイド九龍の近くに点在する、かつてのオフィスビルだった。
廃墟。
そうとしか形容しようがない建物の4階部分に、彼らはいた。
灯りはなく。ただ月明かりのみが、窓から差し込んでくる。
こんな所に好んでやって来るのは、命知らずの若者か、幽霊くらいなものだろう。
「なあ、
聞いてくれ。話合おうぜ? ほんのちょっとでいいんだ」
「拒否します」
手を挙げ、降参の意を示した男・三下 ゴローの訴えを、
改造釘打機を構えた少年・未央は、ばっさり切り捨てる。
安全装置が破壊された釘打機は、三下に突きつけられている。
未央がトリガーを引けば、太い釘が容赦なく、三下の肉と骨を穿つだろう。
だが釘打機を使うのは、最後の手段と未央は考えていた。
流通ルートの絞られる商品は、小さな島の事だ、購入者の特定も不可能とは言えない。
これの元の所有者は荒んだ目をしていたが、決して憎い相手ではない。
だから。
天井から、輪を作ったロープを吊り下げた。
その下に、簡素な椅子が一つ。
「冗談だろう?」
三下が、ひきつった笑みを顔に張り付かせる。
無意識に視線を流せば、未央の足元に、寄り添うように白い犬。
見覚えがあった。死んだと聞いた。
「
落ち着いてくれよ。俺が何をした? ただ、お願いをしただけだ」
「
黙れ!!」
未央の怒声に、三下が震え上がる。
そしてその場にいた、
すでにこの世のものではない、死した魂達が。彼等に注目した。
「そう、法では裁けない。貴方は人の心を巧みに操り、死を呼んだ。
その罪を知るのは、ごく限られた者だけ。貴方自身がその一人だ!
貴方には犯した罪の報いとして、自ら死を選んでもらいます。
構いませんよね? ――三下 ゴローさん」
その方がいくらか楽なはず、と目を細めた未央が言い添えた。
車の水没事故で両親は死んだが、幼いさとみは生きていた。
そこからの推測ではあったが。
「もれいびは簡単には死なないようだから」
時間をかけ、三下のほぼ全ての罪は洗い出されていた。
三下がどんなに這い蹲って命乞いをしても、願いは拒絶され聞き入れられない。
少なくとも、この目の前の少年には。
――だが、他の者には?
「誰でもいい、俺を助けてくれ!!!」
長い長い、波乱の夜が幕を開ける。
メシータです。あとは駆け抜けるだけ。
尚、ガイドにシーサイド九龍の名前をお借りしました。ありがとうございます。
【ご注意】
当シナリオは、とある怪人セブンの模倣犯が起こした一連の事件を扱った物語で、「黒い指先 ――透明な檻――」の続編にあたります。恐らくこれで完結となります。
高難易度です、心してどうぞ。
後味が悪くなる可能性もあるため、苦手な方は参加をご遠慮ください。
*今回は場所柄、余程の事が無い限りは、ののこのフツウが脅かされないため、世界は切り分けられません。
【以下情報】
『マダムキラー』の結果を受け、参加されたPC様にNPC拝島 薫より情報がもたらされています。参加者は「PL情報」の注釈がない情報は、薫経由でどこかから入手した事にして構いません。
■状況
皆さんが到着した時、三下は自らのろっこん【三つ目の願い】によって、周囲の幽霊によって守護されています。
まだ廃ビル4Fにいますが、移動を開始します。
守護する幽霊は、三下の移動に伴い増えていきます。
幽霊が見えるか見えないかは、自己申告で構いません。書かれていない場合、見えるものとして扱います。
未央は幽霊達に襲われ、手近な窓から一旦、脱出します。
幽霊達は催眠状態であるため、普通の人が歩く以上の速度は出ません。
ポルターガイストで現場は様々な物が飛び交っています。(こちらは速度があります)負傷しないよう対策をお立てください。
暗示にかかった幽霊は、ショックを与えたり、心に訴える呼びかけを行えば正気に返ります。
ビル内は月明かりで、それなりに明るいです。遮蔽物、障害物が多数存在しています。
さとみは未央が予め見つけておいたビル内の、神魂の影響で発生している「外部から姿が見えなくなる隙間」に隠れています。。
未央にジッとして声を立てないよう言われているので、今のところ頑張って堪えています。
アクションではそれぞれ誰にどのように関わるのか、しっかりお書きください。説得は内容も具体的にお書きください。
事前準備をする暇はありません。何かすればするだけ、現場への到着が遅れます。
■NPCデータ
●三下 ゴロー(みつした ごろー)/もれいび
【注】追い詰められ軽度の暴走状態です。ろっこんの“対象が複数”になっておりますので、ご注意ください。
「PL情報」発動条件の願いが1つに省略されています。
*ろっこんへの必要な対策が立てられていない場合、敵の術中にハマります。
年齢:43歳
かつて怪人セブンを騙り、自らのろっこんを悪用して事故を誘発していた模倣犯。
優秀な兄を多く持つ。『マダムキラー』に登場した三下 千代子夫人の五男。
自らの保身を最優先します。
・ろっこん【三つ目の願い】(通常時)
条件:二つ願いを適えてもらった後、三つ目の願いを言う
効果:対象一体に暗示をかけ簡単な願いを実行させる
●犬飼 未央(いぬかい みお)/もれいび *未央のみ、ろっこん発動条件が「PL情報」です*
年齢:16歳
盲目の母を持つ少年。神魂を有した存在を見抜くことが出来る。
もれいび狩りを行い、偽セブンの行動を助長していた。
未央が行ったもれいび狩りでは、唯一つの例外を除いて怪我人は出ていませんが、三下が行動しやすい環境を整える事で、間接的に接触事故を増やしていました。
改造釘打機(PL情報:釘打機に加えて、親族を優先とした臓器提供意思表示カード)を所持しています。
巻き込んださとみの安全の確保と、三下の始末を優先します。
・ろっこん【透明な檻】
条件:手で帽子のつばに触れた状態で「捕まえた」と言う
効果:任意の場所に水の立方体を出現させる
●盲導犬の幽霊:ルクス/もれいび
ユーザーは未央の母。過酷な訓練で磨り減っていた感情を、未央の世話で取り戻す。
三下が誘発させた事故の際、車から未央の母を庇い、盲導犬としての使命に殉ずる。
現在は幽霊で、自分の意思で未央のみを護る。
命令は聞かないが、未央と連携した行動を取る事が多い。
・ろっこん【実体化】
条件:月の光を浴びる
効果:物質の体を持つ
●さとみ/もれいび
年齢:7歳
三下の誘発させた事故により、両親を亡くした少女。
母親が作った縫いぐるみを持ち歩いている。
未央からざっくりとした事情の説明を受けて、協力している。三下を両親の仇として認識している。
・ろっこん【魂封じ】
条件:互いに共に在りたいと願う
効果:愛着のある物体に魂を封じる
それでは、ご縁がありましたら。よろしくお願いします。