【作戦２－１：突破】

「ホネダー！！」
　騎馬兵の後ろにしがみつく志波 武道が白目を剥いて叫んだ。
　ヤケクソだった。
　だってアンタレッサの英雄半端ないって！　あいつマジ半端ないって！　ろっこんでシールド作って５万体の竜牙兵の軍勢の中突っ込んでめっちゃ轢殺してくるもん！　しかも200人掛かりで竜牙兵を槍でパッカーンしてくるやん！　そんなんできるフツー？　言うてや出来るんなら！
　ということで、ろっこんシールド走法で竜牙兵を轢殺するゲース騎馬隊に先導され、遺跡突入班と共に護衛班は森の中に突入。
　ゲース騎馬隊の奮戦によって、２つの班の損がはほぼゼロで済んだのは僥倖だ。
「ふお～、ウッソーとしてるね～」
　メリィ・ランページは視界の悪い森の中を掻き分けるように進む。
「うう、普段と違って森の中が不気味に感じますね……」
　友人のリリエル・エーテライトがびくびくしながら周囲を見渡す。
「メリィちゃん、気を付けていきましょう」
「そうだね、リリエル。怪我しないよーにね……！」
　友人同士、自然と手を取り合って不安を紛らわせる。
「しーっ、ちょっと待って！　この先、道がないよ！　僕、偵察してくる！」
　響 タルトが一行の脚を止める。
　そして、おもむろに水筒に入った水を自分の頭にぶっかけた。
　すると見る見るうちに、ろっこん『チェシャ猫』の進化能力により、猫獣人モードに変身する響。

「じゃあ、行ってくるね、ムッシュくん！」
「気を付けてね、にゃんこたん」
　獣人化した響はとても身軽に森の中を掛けてゆく。
　それを見送る鎌八 まもるは、蒼風の馬鎧を装着した６本脚の死霊馬『ハダル』に好物のリンゴを食べさせる。
「どら、ハダル。今日もよろしく頼むぞ。好物のりんごだ。終わったらもっといいもん食わしてやるからな」
　たてがみを撫でると、氷のように冷たい。
　この死霊馬は前回の戦いで旅鴉が捕獲した馬で、響の手に渡ったあと、鎌八がブラック・リキッド亭で世話をする事になったのだ。
　なので、今回は名目上は響からハダルを借り受けている事になっている。
「本当に氷みたいに冷たいんだねー。馬鎧がなかったらお尻が冷えちゃってたかも」
　鎌八の後ろに乗る桜庭 円が珍しそうにハダルの体を触る。
　気性の荒い死霊馬だが、桜庭が撫でても暴れる気配がない。
　もしかしたら、目の前のリンゴに夢中だからかもしれないが。
「まぁ、本来ならハダルに馬鎧なんて不要だろうが、今回は複座だからな。お守り代わりってことで。それに、若い女のコに乗ってもらってるしお前も嬉しいだろ？　ポニテじゃないのがいかにも惜しい美人さんだ。２人でかっこいいとこ見せて褒めてもらおうぜ？」
　鎌八の言葉に、ぶるるんと息を荒くするハダル。
　どうやら、ハダルも女性を乗せる事を誇らしげに思っているようだ。
「こうしてみるとなんだかカワイイかも？」
　白 真白がハダルの青白い横顔を眺めて言葉を漏らした。
「餌で懐いているあたり、甘えん坊さんなのかな？」
「いや、ただ餌をくれる人に従順なだけじゃないか？　旅鴉の話じゃ、あまり知能は高くないらしいじゃないか」
　御剣 刀は率直な感想を口にした。
　これに白は唇をとんがらせた。
「もー、刀くんってばー。どんな動物でもご飯食べてる光景は和むでしょー？」
「まぁまぁ。それより、今は最短ルートを探さないと」

　鮫ノ口 礼二郎はガムを噛みながら周囲を見回していた。
　ちなみに、彼が率いる兵士10人も同様にガムをくちゃくちゃ噛んでいた。
　なぜなら彼のろっこん『脳内ビデオガム』は、ガムを噛んでる間に見た光景を頭の中で一定時間何度も再生して内容を細かく確認出来るのだ。
　迷いやすい森の中で最短ルートを探し出すためにマッピングをするのだが、そのためにここまで辿ったルートを鮫ノ口と兵士たちが記憶しているのだ。
　なお、鮫ノ口隊の兵士は、前回の戦いで鮫ノ口の作戦によって寡兵ながら竜牙兵を翻弄した猛者たちである。
　既に鮫ノ口を「隊長！」と呼ぶほど信頼を寄せている。
「方角が分からない以上、響が戻ってくるのを今は待とう」
「そうだね、迂闊に動いて敵と遭遇するのだけは避けたい。森の中は視界が悪いからな」
　サキリ・デイジーカッターは魔風の力を応用してパッシブソナーの様にして索敵を行っている。
　彼は森の中の敵とのエンカウントを非常に警戒しており、兵士たちに自分たちを守らせるように陣形を組ませている徹底ぶりだ。
　とはいえ、障害物・遮蔽物の多い森の中、ソナー索敵の精度はお世辞にも高いとは言えない。
「いざとなれば、僕が魔風の力で言葉を乗せる事も出来るけど、はぐれないようにみんな気を付けよう」
「了解した。気を付けよう」
　黒いペガサスに跨る恵御納 久隆も周囲の警戒を怠らない。
「あ、あの！　サキリさん、お願いがあるんですけど！」
　リリエルが唐突にサキリに呼び掛けた。
「サ、サキリさんのろっこん、瞬間移動が出来るって聞いたのですが……」
「ん？　ああ、よく知ってるね？　『斬空赤刃』って言って、刃物を持って空間を切り裂くイメージをする事で自分と服、持ってる存在含め５０ｍ以内に瞬間移動できるんだ。しかも一回に移動する距離が少ないほど、連続発動が可能になるんだ」
「わぁ、それは凄いです！」
「それに、発動直後のみ、任意で発動に使った刃物が赤く輝くんだけど、数秒だけ鋼鉄をも破壊する威力を発揮できるんだ」
「ざ、斬鉄剣ですね！　カッコイイです！」
　目を輝かせるリリエルに、サキリは思わず照れくさくなってしまう。
「はは、ありがとう、リリエル。でも、君がこんな攻撃的なろっこんをコピーしてどうする気かい？」

「あ、えっと、私、今回、皆さんの衛生兵として同行させていただくことになりましたが、高速転移の能力は緊急回避やケガをした人に近づくのにとても便利そうです！　なので、コピー出来たらいいなぁと！」
「そういう事か。分かった。それじゃ、僕のナイフを１本貸してあげるよ。あと、よろしくね？」
　サキリはろっこんコピーのついでに握手をしようとリリエルへ手を差し出す。
　それにリリエルはすぐに応じた。
　これでサキリのろっこんをコピーすることに成功した。
「えっと、ナイフを振って、空間を切り裂くイメージ……」
　試しにリリエルが発動させてみると、忽然と彼女の姿が消えてなくなった。
「わわっ！　消えちゃったよ！　リリエルー！　どこだー！？」
　慌てるメリィが周囲へ大声を掛ける。
「あまり大声を出さない方が……。兵士の話だと、この辺りはオオカミの巣になっているらしい。狙われたら厄介だぞ」
「あ、レージロー、ごめん……」
　鮫ノ口の兵士の情報によって、一気に緊迫感が増す一行。
「でも、そうなるとリリエルが危ないよねっ！？」
「大丈夫ですよぉ、メリィちゃぁん……。はわわわわ……」
　葉っぱ塗れになったリリエルと、その後ろからゴキゲンな響がやってきた。
「いやー、びっくりしたよ！　戻ろうと思ったらリリエルちゃんが僕の胸に飛び込んでくるんだもん！　ドキドキしちゃった！　おかげで次の新作のイメージが膨らんじゃったよ♪」
　めっちゃニヤニヤする響。
　タルト先生の次回作（ＢＬ同人誌）にご期待ください！
「えっ、あのっ、それは誤解です！」
　あたふたするリリエル。
　その横で首を傾げる純真無垢な虎娘。
　なんだろう、すげーカオスだな！？
「フフフ、どうやら僕には死ねない理由が出来たようだ……。帰ったらこのイメージを紙に起こす使命を全うしなくちゃ！　という事で、ムッシュくんをはじめとする遺跡突入班は頑張ってね！」
　なんか響さんが超無理矢理に場面を〆たんですけどぉ！？
　さぁ、では、〆たところで場面転換を……。
「タケミチ！　あたしに麻酔を使うろっこん、コピーさせて！」
「メリィちゃん、君、自由だな！？」
「だって気絶させるときとかすっごく便利だと思うの！」
「うん、ありがとう！　でも、そろそろ先進もうか！」
　これには志波、思わずツッコミを入れざるを得なかった。