【星幽塔】第一階層　マイ・フェイタル・シャドウ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　マイ・フェイタル・シャドウ

【作戦１－５　開戦】

　遺跡付近の森から、不気味な金属音が響く。
　その音が次第に大きくなり、土煙が上がり始める。
　森の木々から次第に、赤黒い骨の軍団がじりじりとサジタリオ城へ押し寄せている。
　遂に、星幽塔解放後以来、最大の会戦が起ころうとしていた。

　北門に戻った八神修は、自身のろっこんを兵士たちにコピーをさせて使い方をレクチャーしていた。
「本当なら、前回、旅鴉が捕獲した竜牙兵を使いたかったのだが……」
　前回の戦いにて、完全なままの状態で竜牙兵を捕獲することに成功した旅鴉。
　彼女は具申書に『資料として博物館などの施設への寄贈』を申し出ていた。
　そこへ八神が『自身のろっこんで竜牙兵を撃破できるので貸し出ししてほしい』と開戦前に申告があった。
　請け負ったフランチェスカ直属の文官たちは『寄贈の手続きが途中』である点と『寄贈者の承諾が得られていない』点を理由に、八神の申請をなくなく却下した。
　竜牙兵の技術が失われた現代の星幽塔にとって、完全な状態での竜牙兵はそれだけ学術的価値のある物ゆえ、安易に分解されるわけにはいかなかったのだ。
　仕方がないので、八神は城の補修で出た廃材を簡単に組み立てて人形を制作、竜牙兵に見立てて自身のろっこんを披露した。
「竜牙兵は動くが、所詮は魔力で動く傀儡、つまり無機物で人形だ。だから……」
　八神が息を止め、意識を集中させる。
　すると廃材人形を繋ぎとめていた関節部分の部品が吹き飛び、人形は音を立てて崩れていった！
　兵士たちは思わず驚嘆！
「みんながコピーした俺のろっこん『分解』があれば、竜牙兵をバラバラにすることが出来る。もっとも、分解するだけに留まるので、骨自体は俺達が破壊しなくちゃならない。でないと、ステラオルタが現れた時に復元されてしまうだろう」
　なるほど、と兵士たちは一様に頷く。
「本来は分解する対象に触れる必要があるが、今では目視するだけで充分だ。分解したものを操作することも可能だ。役に立つはず。だから竜牙兵なんて、恐れるに足らずだ！」
　おおっ、と兵士たちから歓喜の声が上がった。

　その後、兵士たちは北門付近へ集合。
　フランチェスカが直々に兵士たちへ宣戦の勅命を下すのだ。
　その傍らには、近衛騎士となった獅子目の他に、護衛として志願した新田樹・新田亮の兄妹、そしてルネ・ルージュ・ルルーも控えていた。
　フランチェスカは壇上に登ると、軍勢に高らかに告げた。
「サジタリオ城の未曽有の危機に立ち上がった皆さんは、勲章がなくとも立派な騎士に値します！　その強い守りの加護が皆さんにはあるのです！　これは聖騎士でも近衛騎士でも、ましてや一兵卒だろうが関係ありません！」
　彼女の言葉を継ぐように、獅子目が軍勢に檄を飛ばす。
「皆の者！　心に騎士の姿を写せ！　誰かを、何かを守りたいと強く願え！」
　そして獅子目はフランチェスカに教えてもらった『サジタリオ城賛歌』を歌い上げる。
　いて座のアステリズムであるサジタリオの領主を讃える国歌に該当する讃美歌。
　軍の音楽隊もオーケストラで伴奏を奏でれば、自然と兵士たちも歌を口ずさむ。
　すると歌い出した者達の周囲に半径１m・半透明の障壁ができたではないか！
　讃美歌が響く中、獅子目は再び軍勢へ向けて叫ぶ！
「加護はフランチェスカ・ダ・サジタリオと共にある！　皆の者、国歌を歌え！　皆の者、生を謳え！　敵は10倍の数だが所詮ただの骨人形だ、後れを取るなァ！！」
「「オオオオオオオオォォォォーッ！！！」」
　兵士の士気が爆発的に上昇！
　獅子目の目論見はこれでほぼ完遂した。
　あとはフランチェスカを護衛し、近衛騎士に任命された務めを果たすだけだ。
「獅子目さん、ありがとうございます。……では、砦に向かいましょう」
「はっ、お供致します」
　獅子目はフランチェスカの弓を取り、跪いて彼女に差し出す。
　それをフランチェスカが手に取れば、更に軍勢のボルテージが上昇！
　立ち上がった獅子目は三度宣言する。
「フランチェスカ・ダ・サジタリオ卿の御出陣！　御出陣！」
　馬に乗るフランチェスカとその護衛班。
　その後ろから砦へ配置に向かう兵士たち。
　既に砦に待機している兵士を含めれば、約500名ほどが最前線で戦う事となる。
　敵は平原を着実に進行しており、赤黒い塊となって押し寄せてきていた。

＜兵士の士気が300％（上限）まで達成。普段の３倍の戦力を発揮することが出来ます＞