しいたけ！｜リアクション

しいたけ！

【解決したかな？】

　その後、ためしに他の人間が原木に触れてみても、しいたけは生えてこなかった。
「原因は、原木ではなく、先輩のほうにありそうですね」
　おそらく、『原木に触れながらしいたけと発言する』ことで、ろっこんが発動するのだろう。
　武生は再びしいたけに埋もれている。
「しいたけをもいでおくれよー……」
　くぐもった声が聞こえる。
「すぐに助けてあげるよぅ！」
　北原みゆきが、武生を気の毒に思い、せっせとしいたけを取り除いていく。
「寮の皆が喜ぶな。これからはしいたけも採り放題……？」
　逆巻天野の手も止まらない。
　もぎもぎ。もぎもぎ。
　もぎもぎもぎ。
「食卓がにぎわいますねー」
　今夜といわず、当分の間、しいたけには困らなさそうだと屋敷野梢は考えた。

　武生の顔が出て、腕が出て、胴体が出る。
　足の裏だけ、潰れたしいたけでべたべたになっていたが、特に害のある能力というわけでもなさそうだ。
「原木に触れるときだけ、キーワードを口にしないよう気をつければ平気だろう」
　御剣刀が言う。
「うむ。ろっこんは、条件さえ揃わなければ無害なものだ。うまく付き合っていくことだよ」
　旅鴉月詠も言葉をそえて、武生は弱々しくうなずいた。

【そのころ、あの人は】

「ふう。上手く仕掛けられたな、こんなものだろう」
　八神修は、一人で怪人捕獲用の罠を仕掛けていた。
　体育倉庫からバレーボールのネットを借りてきて、台車に乗せて運んできた。
　それを部室棟の廊下の天井まで持ち上げたのだ。
　一人で行うには、けっこうな重労働だったし、時間もそれなりにかかった。
　しかし、修は満足げだ。
「これでよし。後は誰かと協力して、ここまで誘導してきてもらうか」
　修はそこでねこったーをチェックして、ショックを受けた。
「……既に解決しているだと！？」
　まさかと思って窓の外を見てみると、細く七輪の煙が上がっている。
　修は罠もそのままに、ふらふらと外に出た。

　奈良橋博美の提供した情報を元に、修は原木置き場にやって来た。
「これは……、って、志井先輩！？」
　腰回りにしいたけを生やした武生が、修に気づいて会釈をする。
「やあ」
「怪人しいたけの正体は、先輩でしたか……」
　地面には、カゴやら袋やらに、収穫されたしいたけが山となっている。
「あれ、俺、もしかして収穫し損ねた？」
　つぶやく修に、武生が手招く。
「男子なら構わないよ。採る？」
「……なんだか嫌な位置に生えてますね」
　修は微妙に顔をしかめる。
「どうしてこんなことになったんですか」
　皆は口々に、修の疑問に答えていった。

【原木ロマン】

「しいたけの苗木の廃木はありませんかー？」
　しいたけを取り除き、すっきりとした様子の武生に梢が訊ねた。
　もちろん今度は、制服もきちんと着用している。
「うん？　どうするんだい」
「苗木は生物の宝庫なんですよー。クワガタの幼虫とか、いっぱいいると思うんですよねー」
　梢がきらきらとした眼差しを武生に向ける。
「シダ、原木見たい。クヌギだクヌギ。虫、いるか？」
　シダも興味を持ったらしく、うきうきとした足取りで寄ってくる。
「カブトムシ、いないか？　カブト！　カブト！」
「食べるのか？」
　刀が首を傾げる。
「かたな、ヘンなこと言うな。さすがにシダ、カブト食べないよ！」
「カブトムシですかー。いいですね、探してみましょうかー」
　梢とシダは、近くの木々を次々に見て回った。

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