しいたけ！｜リアクション

しいたけ！

【もぎもぎしちゃお！】

　武道場裏手の物陰で、武生を囲んでしいたけをもいでいると、次々と怪人を探していた生徒たちが集まってきた。
「しいたけさん、ご無事でしたかぁ。よかったですぅ！」
　北原みゆきは、武生の姿を見るなり、安堵の声をもらす。
「しいたけ星人さん、ここにいたのねぇ」
「僕もしいたけ、もらっていいかな」
　真辺伸幸と逆巻天野も、しいたけをもいでいく。
「しいたけ、余っているなら猫鳴館に持って帰りたいんだ。ほら、いくらでも需要があるし」
「ぬーん……、俺も取り分もらえるなら、猫鳴館の台所に置いておこうと思うのよー」
　どうやら伸幸も天野も、考えることは同じようだ。
「料理上手な方、寮にはたくさんいるしねぇ。俺だと単純な使い道くらいしかわからないしー」
　必要なら自身のろっこんを使ってしいたけの発生を抑えても構わないかと考えていた天野だが、現状を見る限りでは使うまでもなさそうだ。

　そこへ、同じ猫鳴感の寮生である、奈良橋博美と後木真央が現れた。
「あれれ、ファンガスはシイタケセンパイだったのだ？　何がどうしてこうなったのだ！」
　ようやく顔を外気にさらした武生を見て、真央がすっとんきょうな声をあげる。
「ああ……、どうしてなのか、僕が訊きたいくらいなんだけどね……」
「ふうん、怪人の正体が判明したんだな」
　博美がねこったーに早速情報を流す。

　ねこったーに寄せられた情報のおかげもあってか、シダ美穂戸と御剣刀も連れだってやってきた。
「チョーイ　オーイ！　きのこ、きのこだ！　発見した！」
「ここにいたのか。……俺もしいたけ、もらっていいか？」
　刀も、夕飯に役立つと考え、しいたけに手を伸ばす。
「……食費が浮くな。採り放題だ」
「シダも食べたい。ほししいたけ作るか」
「保存がきくな」
「学食に寄付しても、喜ばれるぞ」

「……ぐをぉぉ、ぐぅぅ、具をくれぇぇぇ……！」
　弱々しくも切実な声が、近づいてきた。
「この声は……」
　聞き覚えのある生徒もいるようだ。
「具をくれえ！　おにぎりの、具うぅぅぅぅ！！」
　おぼつかない足取りで、握利平が、鼻をひくつかせながら現れた。
「しいたけえええええええ！！！！！」
「ふぎゃあ！」
　またしても飛びかかろうとする利平を、刀が止める。
「落ち着け」
「しいたけええええ！　具だああああああ！！！」
「うるさいぞ、シダ、蹴るぞ」
「ふぉう！！」
　飛んでくる足をぎりぎりで避けて、利平はたたらを踏んだ。
「し、しいたけ……。くれぇ～！」
　利平は、背中の風呂敷包みをほどくと、中から七輪を取り出した。
「まあ！　七輪！」
　ラッキーアイテムがいきなり現れて、椿美咲紀が目を丸くする。
「網もあるし、醤油もほら！　しいたけを食べるぞぉぉ～！」
　利平が歓喜のおたけびをあげる。
「……やっぱり、うるさい」
　シダの蹴りが、利平の背中にヒットした。

【しいたけの、その奥は】

「待って、待って、それ以上はちょっと……！」
　顔が出て、胴体が出て、手足が出たところで、武生は全員にストップをかけた。
「ああ、そういえば」
　先ほどチェックしたしいたけの原木の近くに、制服が脱ぎ捨ててあったことを博美は思い出す。
「ってことは、つまり……」
　しいたけで埋め尽くされていたから気がつかなかったものの、武生は今、衣服を着用してはいないのだろう。
　身体からしいたけが生えてきたら、服を着てはいられない。
　何名かはぴんときたようだが、美咲紀には制止の声も聞こえてはいないようだ。
「しいたけ三昧！　採り放題！」
　ポニーテールを揺らしながら、ご機嫌でしいたけをもいでいる。
　採るのに夢中で、どこに生えていようがお構いなしの様子だ。
　月詠は気がついてはいるようなのだが、こちらも平然としたもので、手を止める素振りもない。
「気にすることはない。人の数だけ裸体はある。下半身も同じだ、ダビデ像など、常に露出しているじゃないか」
「いや、無理！　それでもやっぱり無理だからーっ」
　真っ赤になって、武生は残りは自分で採ると主張した。
　男心は繊細なのだ。