しいたけ！｜リアクション

しいたけ！

【怪人のうわさ】

　放課後、校舎のまわりで、しいたけの怪人が出没したとの噂が流れていた。
　奈良橋博美もまた、そんな噂を聞きつけた生徒の一人だ。
「身体中にしいたけが生えてるっていうのは、本当かなあ」
　だとしたら、よほどしいたけが好きな怪人なのかもしれない。
　放ってはおけないと感じた博美は、目撃情報を集め出した。

『体育倉庫の物陰にひそんでいた』
『部室棟から講堂に向かって走っていた』
『木陰から駐車場の様子をうかがっていた』

　そんな情報が寄せられる。
「できれば時系列順に並べたいんだけどな……」
　どうやら怪人が出没してからまだそう時間は経過していないようだ。
　怪人の通ったルートは明確にはわからないものの、人目を避けて校舎の北側をうろついているのは確かなようだ。
「しいたけか。部室棟……、園芸部をのぞいてみるか」

　園芸部の部室につめていた部員に、しいたけを育てているかと訊ねてみると、一人だけしいたけ専門の幽霊部員がいるという。
　どちらかといえば内気で、目立ったところのない三年生だという話だ。
　名前は、志井武生（しいたけお）。
　親切な部員に案内されて原木置き場に足を運ぶと、なぜかそこには脱ぎ捨てられた制服が一式、地面に落ちていた。

【さまよう怪人】

「そもそも、筍と茸がどうやって剣をふるうんだろう？」
　逆巻天野は、もらいもののチョコレートの箱を見ながら首をかしげた。
　手には、筍の形をしたチョコレート。
　どうやら茸型のチョコと不仲らしいのだが、植物同士でどうやってケンカをするのか、はなはだ疑問だ。
　そこへ聞こえてくる、「しいたけだ！」の声。
「ん、何の騒ぎ？」
　天野が目を向けると、全身にしいたけを生やした人間らしい生き物が、木陰に逃げ込むところだった。
「ああ、なるほど。あれが茸の代表か」
　対戦相手の筍の代表は、身体から竹を生やしているのだろう。

　それはさておき、天野は怪人しいたけを目撃して、ぴんときた。
　おそらくあれは、神魂が関わっているに違いない。
　怪人を目撃して動揺している他の生徒に、声をかける。
「あれね、演劇部の収録らしいよ。よく出来ているよね」
　おかしなことに巻き込んでしまわないよう、そう言いつくろうと、生徒はほっとした面持ちで笑顔をみせた。

　そこに、カメラを片手に構えた八神修が、息をきらして駆けてきた。
「こっち……に、しいたけ、が……」
　どうやら彼も騒ぎを聞きつけてやって来たようなのだが、体力には恵まれていない彼のことだ。
　既に疲れた顔をして、肩を大きく揺らしている。
「しいたけなら、向こうの木陰に逃げていったよ」
「くっそ、見失ったか……。しいたけの、くせ、に、足が速いな……」

「追いかけているのかい？」
　少し息のととのった修に訊ねると、彼は乱れた髪をかきあげてうなずいた。
「そうだ。危害を加えるつもりはないと伝えたんだが、聞く耳をもたない」
「しいたけか……。食べられるかな」
　天野はつぶやく。
「冬虫夏草ならぬ冬人夏草だな。味はどうなんだろう。食べられるんじゃないか」
「興味深いね。よし、僕も追いかけよう」
　ただでしいたけが手に入るならば、喜ぶ者もいるだろう。
　後を追うという天野に対し、修はもう少し頭を使うことにした。
「俺は追うのは諦めた。罠をしかけて捕獲する」
　ちょうど体育倉庫もほど近い。
「バレーのネットを借りてくる」
「そうかい。それじゃあ、また後で」
「ああ。またな」

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