あの日のあとで３｜リアクション

あの日のあとで３

　寝子高雑巾掛けレースの賞品として『久保田先生宅のペア掃除券』をＧＥＴした八神修と七夜あおい。
　かくして修達は、休日に、久保田美和先生の家を訪れていた。
　魔境――もとい、久保田先生の家のリビングにて、修はあおいへと笑みを向ける。
「改めて、今日はよろしくね。それにしても、先生の家ってレアだよなあ」
「ふふ、修君、何だか楽しそうだね」
　指摘されて「そ、そうかな」と指で頬を掻く修。
　実際のところ、あおいと休日を過ごせるということで、修の心はふくふくと弾んでいた。
「ちょっと大変そうだけど、一緒に頑張ろうね！」
　軍手をはめた手をぐっと握ったあとで、「よーし！」とあおいがゴミ袋に謎の物体Ｘ達を放り込んでいく。
（あおいは沢山弟妹達がいるから、掃除のノウハウは身についてるのかな）
　と、迷いのないその手際に思いながら、修も早速作業に取り掛かった。
「整頓とか、悪くないよね。掃除の前に、先ずは片付けだよな」
「これじゃあ、雑巾もかけられないもんね。……あ、そういえば」
　あおいが、ふと大切なことを思い出したというふうに、修を見遣る。
「修君、レースの時、私のこと助けてくれたでしょう？」
「ああ、そんなこともあったね」
「ありがとう、って、言ってなかったなって」
「そんな、改まらなくって良いよ」
　少し照れた様子を見せれば、「あ、珍しい顔」とあおいは笑みの花を咲かせた。
　けれど――不意に、その笑顔がふっと曇る。
「それから、ね。……この間、車から守ってくれたじゃない？」
　怪我はもう大丈夫？　と不安げに問うあおいへと、修は、
「ああ、もう殆ど消えてるよ。心配しなくていい」
　と、明るく力強い声音で応じた。
「そっか……良かった……」
　きゅ、と、あおいが胸元を握る。
　軽く伏せられた青の眼差しを目に、修は愛おしさを募らせた。
「――あおいは、守られるだけじゃなく主体的で活発な人だ。だから、一緒にいて楽しい」
「……そう、かな」
「保証するよ。でも、いざという時は何度だって体を張ると思う」
「修君は優しいね」
「誰にでもじゃないよ」
　好きな人のためだからね、と、胸の内に付け足す修。

（あおいのためなら、俺は……）
　そんな決意を感じ取ったのか、「無茶はしないでね」とあおいが笑う。
　うん、と、修は素直に応じた。
「さ、片付け頑張ろうか。あおいが、今日中に家に帰れなくなっても困るしね」
「あはは、そうだね、さくっと片付けちゃおう」
　それでも、久保田先生の家を出たのは、夕暮れ時になった。
「疲れたー」
「だな。お疲れさま、あおい」
　自動販売機で買った缶ドリンクを、ひょい、とあおいの方へと向ける。
「わ、ありがとう！」
　と、あおいが声を華やがせた。
「お菓子もあったら良かったんだけど。コンビニでも行く？」
「うん、行こう行こう」
　２人並んで、柔らかく夕日が照らす道を、ぽくぽくと歩く。
「最近、どんな料理を作った？」
「色々だよー。お弁当のおかずのレパートリーもね、増やし中だし」
「へえ。次は何を作る予定？」
「うーん、何にしようかなあ。修君、何かアイデアないかな？」
「そうだな……」
　お喋りに興じるうちに、コンビニエンスストアへと、あっという間に辿り着いて。
「ほら、行こう！」
　店内へととび込むあおいの髪がふわと揺れるのを眺めながら、修はそっと目元を和らげた。