あの日のあとで３｜リアクション

あの日のあとで３

　偶然本屋で出会った、その帰り道のこと。
　佐藤英二の手にした書店の買い物袋の中で、コミックス２冊と雑誌１冊が、小さく擦れる音を立てた。
　英二の隣を行く野々ののこも、英二と同じ買い物袋を機嫌良くぷらぷらさせている。
　その中身がののこ曰くの『青春っぽい』少女漫画雑誌だと思うと――英二の心臓は余計に暴れた。
　英二は、今まさに、『青春』のど真ん中に立っているのだから。
（まさか、一緒に帰ることになるなんて……）
　途中まで一緒に帰ろ♪　と向けられた屈託のないののこの笑顔。
　あれにはゴアラの一撃か、下手をすればそれ以上の威力があったと思わずにはいられない。
　しかも、「コンビニでも寄っていく？」という追撃付きである。
　どくどくとして落ち着かない胸の辺りをきゅっと握る英二だったが、
「あ、そういえば！」
　と、ののこが明るい声を上げるのに、ハッとして彼女の方へと顔を向けた。
「ど、どうしたの？」
「さっきの漫画って、どんな話なのかな～って」
　さっきの漫画、というのは、英二が買い求めた２冊のコミックスのことだ。
　読み終わったら貸す、という約束を、先ほど交わしている。
「ええと……ネタバレになっちゃうよ？　大丈夫？」
「だいじょーぶ！　内容が分かってても、楽しく読むから！」
　面白そうだったから今からどんな話か気になっちゃって、と、ののこ。
「それじゃあ、読み甲斐を奪わない程度に。……うーん、どっちの話からしよう……」
「あ、ゴアラ！　ゴアラがいいな！」
　ののこが、教室で挙手する時みたいに手をぴんと上げる。
　その双眸のきらきらと輝いているのに、英二は口元を緩めた。
　それに、とにかく大好きなゴアラの話を、他ならぬののこに所望されているのだ。
　英二の胸は、今度はふくふくとした嬉しさで弾んだ。
「『ゴアラ怪獣遊星』では、ゴアラのあまりの強さの前に、人類は他の星への移住を余儀なくされるんだ」
「他の星へ！？　スケールが大きいね～」
「だよね。だけど、その計画が……」
　英二の話に、「うんうん」と時折頷きながら、至極真剣に聞き入るののこ。
「……っていうのが大筋かな。あとは漫画で楽しんでもらえたらって」
「ありがと、英二くん♪　漫画読むのが、益々楽しみだ～！」
　きししっと笑ったあとで――そういえば、と、何かを思い出したようにののこが零す。
「今、映画館でやってるのって、それの続きかな？」
「！　『ゴアラ決戦機動増殖要塞』だよね？　もしかして、もう観た？」
「へ？　ううん、まだだよ～。でも、面白そうだなぁ、って」
「このシリーズのゴアラ、無敵すぎるくらい強くて個人的にメチャクチャ面白いよ！」
　ぐい！　と身を乗り出して、熱く語る英二。
　その瞳の煌めきを目に、ののこは目をぱちくりとさせて――じきに、真面目な顔で口元に手を宛がった。
「ふむふむ。英二くんがそんなに言うなら、本当に面白いんだろうな～」
「超オススメだよ！　前日譚の小説『ゴアラ　プロジェクト・メカゴアラ』もすごく良くて……」
「お、小説もあるの？」
「……読む？」
　きらり、英二の目が光る。
　英二の熱の入り様にくすと笑って、ののこは「読みたいな」と頷いた。
「あ、でも、あんまり難しくないといいなぁ」
「大丈夫！　面白いから！　すごく面白いから！　……あ、そうだ」
「ん？　なになにどうしたの？」
「映画、まだ観てないんだよね？」