【中間テスト】一夜漬け狂騒曲　～寝るなよ？　絶対寝るなよ？～｜リアクション

【中間テスト】一夜漬け狂騒曲　～寝るなよ？　絶対寝るなよ？～

■貫徹勉強会、猫鳴館の場合

【１】

　鬱蒼と茂る九夜山の緑に囲まれて、ひっそりとその館は佇んでいる。
　猫鳴館。築60年を数える、かつての寝子島高校の学生寮である。

「ね、ねえひびきちゃん、ここほんとに人住んでるの……？」
　見上げた夢宮瑠奈が怯えて、隣の天馬ひびきの背中にしがみついた。
　住んでるのどころか、寝子高の問題児が多く集い、毎日が賑やかなのだが。外部の人間からしたら、廃屋同然にしか見えないのだから、瑠奈の懸念も無理からぬ事だろう。
「ほんとだよー、瑠奈ちゃんってば。もう心配性なんだから」
「う、うん。きっと皆、いい人だよね……？　おいしいお菓子もあるし、仲良くなれるかな」
　瑠奈が手作りのクッキーを、しっかり抱え直す。
　微かに暖さと共に、ほのかに香るバニラエッセンスの甘い香りが、鼻腔をくすぐった。
　お菓子を用意したのは瑠奈だけではない、ひびきの方もお手製ミニマドレーヌを用意していた。
「絶対なれるって！　さあ、入るよ？　こーんにーちはー」
　元気なひびきが先を行き、瑠奈も慌てて小走りにその後に従う。

　瑠奈とひびきに次いで現れたのが、美術部の仲良しコンビ・北原みゆきと響タルトである。
　みゆきは昼でさえ、不気味な雰囲気を醸し出している、館に完全に圧倒されていた。
　誘われて今日の勉強会に訪れた彼女、猫鳴館をホラーハウスと思い込んでいる。恐々と見上げるママ譲りの青緑の瞳は、すでに涙で潤んでいる。
「や、やっとついた、重かったぁー……みゆきちゃん荷物多すぎだよー。こんなに何持って来たの？」
　みゆきが重すぎる荷物に悪戦苦闘するのを、見かねてここまで手を貸して来たタルト。
　坂道は重い荷物を運ぶには、本当にきつく、ここまでの道のりは長かった。
　タルトは火照った頬に、パタパタ掌で微風を送っている。
「ええっとねぇ……」
　そんな友人の前に、みゆきは一つ一つ確認するように、次々とリュックの中身を披露した。
「万が一、遭難してもいいように、三日分の水と食料だよぅ。あと風邪薬に、整腸剤と眠気覚まし。木に覆われて暗いって話だったから懐中電灯、それと予備の電池」
「へ……三日、分？」
　タルトは二の句が告げず、睫をしばたかせた。
　脱力して口をあんぐりと開ける彼女に、みゆきはまだ続ける。
「それと迷った時のために、コンパスでしょ……。寮に、お化けがいるかもしれないから、ロザリオも」
　首から下げた、銀の十字架を引っ張り出して見せる、みゆき。
「ポケットにはスマホ、こっちはニンニクの入った袋。腰のこれは、聖水(ただの塩水)のビン」
　疲れた脳の栄養、手作りのべっこう飴は、リュックのポケットに。
「万策尽きた時用に、神社で貰ったお札も、体中に貼って来たよぅ。タルトちゃんも使……タルトちゃん！？　どうしたの？？」
　タルトがダウンした。すでに真っ白に燃え尽きていた。
「わぁぁあん！　タルトちゃんがぁ！　きっとお化けに呪われたんだー、ぐすん、私がもっと早く、お札を渡していれば良かったんだぁー！　こんな事になるなんて、ごめんねタルトちゃぁん！」
　いやいや、みゆきちゃん。君のせいだよ。

　そんな警戒度MAXの猫鳴館であったが、実は今回に至ってはロリ鬼教官や、普段は入れない他寮目当てに、後木真央をはじめ「お出かけ」した者も多く、乾物マスターが「解せぬ」……と呟く程、どこよりも平和だった。
　大事なテストを前に、お夜食を持ち寄って大部屋に集まり、和気藹々と勉強を教えたり教わったり。
　むしろいつもよりも、静かかもしれない。

　だが、何事も起こらず……とはいかないのが、猫鳴館クオリティというやつでもあった。