寝子島へ帰ろう！｜リアクション

寝子島へ帰ろう！

　　　５

「ほらほらほら！！」
　その様子を見ていた巧は、外を指差しながら喚いた。
「確かにやばいな……」
　対応を一つでも間違えれば、武道はすぐに殺されるだろう。
「みんなを信じるしかない」
「でも、うまくいかなかったら？」
「さあな……。あいつに見つかると面倒だから、お前は頭を下げて――」
　振り返った雅樹は、言いかけて固まった。
「――東門、お前」
「え？」
　巧には自覚は無いようだった。だが、左の指先までどす黒く変色していた。それに気づき、巧は真っ青になった。
「わああああ！　何これ！？　何！？」
　巧はだらりと下がった左腕を見て、叫んだ。右手で左の手首を掴み、雅樹に救いを求めるような目をしている。自力で上げようとしても、上がらないのだと雅樹は気づいた。
「何これ！？　どうしちゃったの！？」
「――東門！　許せ！」
　雅樹は咄嗟に、巧の横っ面を引っ叩いた。その瞬間、ろっこんが発動して巧は硬直したまま地面に転がった。殴られた頬は腫れ、白目を剥いているが、これで浸食は食い止められるはずだ。
　問題は目を覚ませばまた進むということだが、それは、
「……まあ、また殴ればいいか」
と雅樹は思った。

　雲母が去るのとほぼ同時に、光、柘榴（ざくろ）、八神修、美咲紀、ロベルト・エメリヤノフが本拠地に辿り着いた。
「さて、どうする？」
　様子を伺いながら、修が呟くように尋ねた。翡翠相手に武道が土下座しているのが見え、何をやっているんだと呆れる。
「正面から行く」
「いや、それはさすがにまずくない？」
　ロベルトは慌てて光を止めた。
「何で？」
「今のあの状況に突っ込んでいったら、話がややこしくなると思う」
「じゃ、裏から突っ込めば？」
と柘榴。
「いや、それもどうかと」
「何でだよー。表が駄目なら裏があるじゃん？」
「目的は何？　ヴァルキリーを倒すこと？　巧くんを――」
「たっくんを取り返す！」
「じゃないでしょ！　助けるんでしょ！」
　美咲紀が間髪入れずに訂正した。
「どっちも一緒」
「一緒じゃないです。まず助けること。肉体的に。物理的に。それからどうするかは、後で考えるです」
「じゃ、話は簡単だ。美咲紀さんはあっちへ。光くんはここに残る」
「何で！？」
「光くんが行ったら、向こうがパニックになるでしょ。巧くんを助けるどころじゃなくなるよ」
　むう、と光は口をへの字にした。
「俺は美咲紀についていくよ。ボディガードだ」
と、修は言った。
「俺は残るよー」
「だろうね。僕も残る」
　ロベルトの言葉が意外だったようで、柘榴は目を丸くした。
「保証、とか担保とか。僕らが裏切るわけじゃないってことの証拠」
　柘榴はにやりとして、ロベルトの肩をぽんぽんと叩いた。
「やっぱお前、いい奴だな！」
　こんな状況でなければ、そして異世界でなければ、柘榴とはいい友人になれたかもしれないとロベルトは考えていた。