寝子島へ帰ろう！｜リアクション

寝子島へ帰ろう！

　　　６

　武道による翡翠の説得は続いていた。
「このまま俺たちを殺せば、この世界は、いや……琥珀さんもあなたも全員が死ぬ可能性が高い」
　ちなみに正座したままである。武道は翡翠を見上げ、話をしていた。
「どういう意味だ？」
「俺が質問したとき、沈黙しましたよね？　『雲母さんなら、藍玉さんを倒せる』かって。最悪を考えると、雲母さんはもう何人も倒してる」
「――瑪瑙（めのう）と藍玉を倒しているのは間違いないだろう」
　ためらいながらも、翡翠は答えた。
「二人の力を使ったから？」
と莉鳥は尋ねた。翡翠が妙な動きを見せれば、すぐに電撃を飛ばすつもりで傍にいる。
「つまり雲母は、三人分の力を使えるわけよね？」
「他に隠し玉は？」
「ない……と思う」
「言い切れないのね？」
「否定はしない。だが、それと我々が全滅するのとどう繋がる？」
「そちらが俺たちを殺すなら、俺たちもヴァルキリーも全力で抵抗する。当然、そちらは疲れる。もしそこに、雲母が来たら？」
「……」
「考えてくれていい。だが、時間はない。俺たちの望みはただ一つ。みんなで寝子島に帰ることなんだ」
　武道は翡翠の目を真っ直ぐに見つめて、訴えた。
「みんなと言ったな？　琥珀様は入るのか？」
「……琥珀さんは置いていくよ」
　その返事に莉鳥はハッと息を飲んだ。それはおそらく、答えとして正しい。翡翠は琥珀がここに留まることを望んでいる。だがそれは、琥珀自身の願いではない。
　この選択が、どう影響するか。
　莉鳥は、最悪の事態を想定した。

　気絶して【缶詰】になった巧と雅樹の傍に、美咲紀と修がやってきた。
「どうもありがとうございました」
　美咲紀が深々と頭を下げると、案内してきたコロボックルたちがきゅいきゅいと嬉しそうに笑った。
「二人とも、どうしてここへ！？」
「巧くんを治しに来ました」
　修は黙って巧の袖を捲った。――固まっていたので、少々やりづらかったが。
　そして絶句する。【缶詰】のおかげで浸食は止まっているが、今や肩まで毒は回っていた。これが全身――或いは心臓に届いたとき、巧は死ぬ。
「そうはさせません！」
　美咲紀はコロボックルから花を受け取った。
「固まったままで、いけるか？」
「駄目かもしれませんが、やってみるです」
　美咲紀は花を持ち、舞い始めた。
　しばらくして、巧がう、と唸り、身じろぎした。同時に【缶詰】が解け、徐々にどす黒い痣が薄く、小さくなっていく。
　だが、範囲が広いためか、なかなか全てを治すことが出来ない。
　ほんの少しでも残っていれば、またそこから毒が広がる。美咲紀は飛び散る汗を拭うこともなく、舞い続けた。