海と歌とキャンプと｜リアクション

海と歌とキャンプと

『続いての登場は！　あの『CitrusCat's』の未明せれねちゃん――！』
　ステージから聞こえてくるアナウンスに、恵御納夏朝は思わず振り返る。未明せれねこと夢宮瑠奈は、素敵な歌声を持つ友達。できれば近くで彼女のステージを観たい。
　青空に立ち上がる銀色の舞台は、屋台の並びからでは遠くて背伸びをしても見えないけれど、歌声くらいは聞けるだろうか。
　設置されたゴミ箱のゴミを回収し、捨てられたレジ袋や食べ物の包み紙を拾いつつ、夏朝と八神修の二人組は賑わう人々の邪魔にならぬように屋台の通りを手際よく巡る。

「ヤアヤアイラッシャーイ、神出鬼没甘味屋台『マジカルハロウィーン』開店ダヨ」
　変声機を通した特徴的な声の呼びこみを耳にして目を向ければ、そこにはパイとプリンとチーズケーキの甘味屋台。南瓜頭に派手な衣装で飛び跳ねる看板キャラクターと目が合い、修は思わず笑みを零した。
　イベントスタッフのバイトに勤しむ友人と鉢合っても、南瓜頭の中身である旅鴉月詠は微塵も動じない。
「店長ノじゃっくデス」
　シレッと言い、普段は見せないおどけた動きをしてみせる。
「ライヴトイエバ甘味ダロウ？　うちノスイーツミテイキナー」
「いらっしゃいませー！　ライブの合間にお菓子はいかがですかー？」
　店頭に焼き上がったパイやプリンを並べる猫耳メイドにぺこりと会釈し、夏朝は屋台の脇に設置された休憩用のテーブルを使い捨て紙ふきんで拭く。
「ありがとう、お疲れさまでーすっ」
　猫耳メイド姿の檜扇舞華は明るい声で言い、焼きたてを知らせるためのハンドベルを手に取る。鳴らして宣伝しようとしたところで、脇からひょいと現れた南瓜頭の店長にベルを奪われた。
「あっ」
「ハーイイラッシャーイ」
　ちりんちりんとベルを鳴らし、くるくると舞う雇い主の楽し気な背中を眺めてから、舞華はステージから聞こえ始めたリズムに合わせて動き始める。こんなに楽し気な音楽、
(自然に身体が動いちゃうんだ！)
　楽し気にリズムを刻むふたりと漂う甘いお菓子の匂いに惹かれ、店の周りにひとりふたりとお客が集まり始めた。

「プリンとアップルパイとチーズケーキ下さいなっ」
　スキップもしそうな勢いで、店頭に椿美咲紀が立つ。
(寝子高新聞部としてこのイベント、見過ごせません！　と取材に来たのです、が)
　おかしな南瓜頭の店長のジャックさんと同じようにカラフルな屋台に並ぶ甘いお菓子を、美咲紀は黒い瞳をきらきら輝かせて熱く見つめる。
　あちらの屋台にもこちらも屋台にも、美味しそうな品物がたくさんたくさん並んでいる。
(これは食べ歩きルポの啓示かっ)
　そうに違いないのです、と両手をぐっと握りしめる。音楽イベントの取材も大事だけれど、腹が減っては戦は出来ぬ。イベントは長時間に及ぶ。お腹を満たしてからでも存分に取材は出来る。はず。
「取材か、キュウリ」
　メイド姿の店員さんがお菓子を詰めてくれる様子をにこにこと眺めていて、不意に肩をがっしり掴まれた。振り返れば、にこにこ笑顔で新聞部部長の修が立っている。にこにこしているその癖、どこか腹の底が冷えるような気がするのは何故だろう。
「あっ、屋台の陳列写真に撮らせて下さいね！」
　美咲紀は慌てて取材モードに入る。イベントスタッフバイト中の修が仕事に追われて遠ざかるまで、一生懸命屋台や周囲の写真を撮る。ある程度撮った後は、買い込んだお菓子とお隣の屋台で買ったコーヒーを手に近くのベンチに座って安堵の溜息ひとつ。
　新聞部部長の姿はとりあえず消えている。
　口の中で滑らかにほろほろと崩れるチーズケーキをもぐもぐ。
(美味しー)
　コーヒーで一息ついた後は、取り置いておくつもりだったプリンももぐもぐ。
(美味。美味なのです)
　この際アップルパイももぐもぐしようか迷いながら、美咲紀は立ち並ぶ屋台をぐるりと眺める。
(巡る順番考えないと、お腹いっぱいになっちゃうですね)
　結局アップルパイもさくさくもぐもぐしつつ、入り口で入手したパンフレットを広げる。ここはじっくり腰を据えて考えなくては。
(キャンプの時におやつ代わりに食べたいものも忘れず買わなきゃ)
　カステラ系のものがいいかな、揚げ物系のものがいいかな。
　美咲紀の食べ物ルポは始まったばかりだ。

このページにイラストを設定する

海と歌とキャンプと

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧