つつもすすはらいて｜リアクション

つつもすすはらいて

　決め手のない戦いを動かそうと、新たな戦力が加わる。小山内海は懸命に『アクセラレイトライン』を振るっていた。御剣刀、橘千歳、桜庭円とチームを組み、慎重につつもと対峙する最適の距離を測る。三人が前、海が後ろだ。ペンで空中に線を描くと、刀の一刀が、舞の一撃が加速する。海の描く線には迷いがなく、また誤りもひとつもなかった。正確な軌道が、仲間を襲うつつもの黒髪を確実に切り裂いて行く。足元には、海の言葉の代わりとなるスケッチブックが投げ捨てられていた。言葉を捨て、ペンを戦う力に変えて、海はただひたすらにペンを振るう。
　パーティは次第につつもとの距離を詰めていったが、ある時、さばき損ねた黒髪の刃が前に立つ二人を襲う。海はためらわずに前に出た。凶悪な黒い刃に正対し、見当違いのほうへ飛んで行く軌跡を描く。いつの間にか、攻撃を逸らす要として海がいちばん前に立ち、刀、千歳、円がその隙を突いて攻撃を叩き込むというフォーメーションができ上がっていった。
「ありがとう、海ちゃん！」
円はロケット花火でつつもの黒髪を狙い、弾弓で攻撃範囲を計っている。
「小山内さん、油断しないで。無理も禁物よ！」
千歳は巨悪に対峙する今、ろっこん『正義一直線』で、物干し竿からうなりを上げる正義の衝撃波を打ち出した。衝撃波の通り抜けた場所の黒髪は大きな穴が開き、絹のような細い髪の毛が暴風にあおられて踊る。
（私にも、できることがある。私、みんなを守ってみせる！）
円と千歳の声に励まされ、刀が後ろで剣を振るうのを感じていると、不思議と怖くなかった。
海はペンと言う剣を振るい、ことごとくつつもの攻撃をいなす。目標に当たり、硬度を増す前につつもの攻撃は弾かれ、木々や地面に突き刺さってむなしい轟音を響かせた。
「お前のその力！　うらめしい！　ああ、なんといまいましい！」
つつもは怒り狂っていた。人間など、ただむなしく貫かれ、壊れた人形のように倒れる姿だけを望んでいた。だがこの少女の力はつつもの理解の範疇を超える。先ほどからうるさい羽虫どもに加えて、この三人そろって攻撃してくる連中の鬱陶しいこと。海が腕を振り、妙な線を描くたびに、自在に動くはずの髪は狙った軌道をそれてあらぬ方に飛んで行ってしまうのだった。
「ならばこれではどうだろう？」
一度に三本の黒髪が伸びる。そのどれもが今度は海ひとりを狙っていた。
（あ……だめ、さばききれ、ない）
悲鳴を上げたかったが、喉からはかすれた息だけが漏れた。
「小山内ーっ!!」

最後に聞こえたのは、大好きな人の声だった。
連続攻撃に判断を誤った海の両手が、黒髪に絡め取られる。怒りに満ちた、けれど少し悲しそうな黒髪の少女の顔、近づいてくるきらめく花の蒔絵の櫛。
（……ごめん、なさい）

「うそ……海ちゃん、海ちゃん!?」
「小山内さん！　目を覚まして！」
双の瞳に、いつもの輝きはない。暴力に塗りつぶされた曇った瞳を刀たちに向け、身を翻す。友と正対し、海はつつもの傍らに寄り添っていた。
「ふふふ。かわいい子。私のために働いてくれるという」

――さあ、駒をどんどん増やしていこう。
人間たちはみな私の僕か、無様な屍にしてやろう。
つつもの高笑いが境内に響いた。