つつもすすはらいて｜リアクション

つつもすすはらいて

　悪意に導かれ、最悪、最強のチームができつつあった。
つつもの髪がうなりを上げて伸びる。かわそうとした途端、小山内海の『アクセラレイトライン』によって黒髪は自在に軌道を変え、時に背後から、時に死角からその切っ先を現す。近寄れば優れた拳法の使い手である尾鎌蛇那伊に阻まれ、生半可な攻撃は七夜あおいが素手で受け止める。添木牡丹、いや『のばら』の戦闘力は桁違いで、これに応戦しようとすると、細くか弱い力しか持たない弘明寺能美子が盾になるという厄介さだった。
「小山内の変化球だけ避ければなんとかなる！　あとはストレートな肉弾攻撃だ」
（それに俺じゃ、つつも本体を倒せない）
駆けつけた志波武道はそう言って味方を激励した。最初はつつもの姿を『市松人形のようだ』と揶揄していた武道だったが、予想以上の苦戦を見ると、軽口を叩くことはなくなっていた。この場に来ている者の大部分は、武道と同じ寝子高生だった。仲間の血と泥に汚れた姿など、これ以上見たくない。そして、こんなものが神社を出て、町に下りたらどうなってしまうのか。武道の恐れる、弟のフツウの破壊が間近に迫っているという危機感は、彼に焦りを抱かせた。
（『スイ・マー』で体の一部分でも、どこか突ければ……！）
武道は操られた仲間たちの動きを止めることを狙う。もっとも近くにいたあおいが、前に躍り出た武道に反応した。あおいの繰り出す大振りのパンチを武道は軽々とかわしていく。
「ほれほれ、そんなんじゃ当たらないぜ？」
武道の言葉が聞こえているのかどうかは定かではないが、あおいの狙いは確実に武道に絞られた。普段ならありえない、粗暴な敵意をむき出しにしてあおいは武道に殴りかかる。『カジバオトメ』で強化された拳の攻撃は大振りで避けるには難しくないが、当たれば打ち身どころでは済まない。ひらひらと攻撃をかわす武道に、あおいは闇雲に拳を振るっていた。
「よっ、と……少しの間だ、ごめんよ！」
右肩を狙って、武道が突きを見舞う。狙い過たずあおいの肩にヒットした突きは、武道のろっこん『スイ・マー』を発動させた。突いた部分の神経は一時的に麻痺を起こし、途端あおいの右手はぎちぎちとぎこちない動きしかできなくなる。
「よし！　このままあおいちゃんを無力化すれば助けられる」
動きの鈍ったあおいに霧生深雪と八神修が駆け寄るのが見えた。助けは彼らに任せればよいだろうと武道は思った。近い位置には、楪櫻が。模造刀を振るい、得意の剣術で髪の攻撃をいなしている。ヒットした瞬間硬質化する、そのわずかな隙を突いて攻撃を逸らすと言うぎりぎりの戦い方だ。その時武道は二本の髪束が同時に櫻を狙うのを見た。一本は海の『アクセラレイトライン』の軌道に乗って、体の横に回り込もうとしている。
「危ない、櫻ちゃん！」
武道は駆け寄り、跳んだ。手段を選んでいる余裕なく、櫻に体当たりをする。髪束の一本は刀ではじき、もう一本は倒れこんだ武道と櫻の上をかすめて戻っていった。ほっとしたのも束の間、武道の前にはふわりとつつもが降り立っていた。足代わりに使う黒髪の束は、蛸足のようにぐねぐねとうごめいている。
「私の駒を台無しにしたな。お前が代わりになってもらおうか」
すべてがスローモーションになったように思えた。髪が伸び、櫻を払いのける。また別な髪が武道を絡め取った。あやかしの力のこもった櫛を手ずから携えて、黒い髪、白い肌の少女が迫ってくる。妖気を放つ瞳に見つめられ、武道は動けない。
（いやだっ、やめてくれ……！　俺自身がフツウを壊す存在になんて、なりたく、なっ……い……）