【星幽塔】第一階層　薬屋『Uisge beatha』｜リアクション

【星幽塔】第一階層　薬屋『Uisge beatha』

　そうして外の周囲は完全に暗く、ついに閉店時間となった。
　アルレッテ・ザメニスが、店の前で皆を見送っていく。

「いやぁ、今日はほんと好い目見せてもらったっす。
　またこういう機会があるといいっすねぇ」
　　ジーナ・レインガンドが、食事もアフタヌーンティーも全て美味しく頂いて、満足げに今回の成果が入った袋と、一杯になったお腹をさすって、お礼と共に帰って行った。

　傍らでは、使用を終えた食器類をきちんとろっこん“絵空事”により、スケッチブックの中に新種の魔法の如くしまい終えて、それで人目を集めた旅鴉月詠が、恭しくお辞儀をして見せた。
「このように研究してます。
　お昼時はどうぞ喫茶『迷い猫』へ」
「ああ、昼食美味かったよ。
　喫茶『迷い猫』だね。覚えたよ」
　月詠のドラゴンロールと、さり気なく一緒にリリエル・エーテライトのものとしっかり食べ比べして、どちらも堪能したティオレ・ユリウェイスが感謝を告げつつ、その場を後にした。

「うん、この薬。今度の冒険で試してみたいな」
　手元に、完成した袋に入った薬をじっと見つめていたアリス・ミーティアは、帰途につきながら歩きつつ考える。
「そうだ！　友達にも分けてあげたいな。
　何粒かずつ小さな袋に入れて、今度会った時に渡そうっと」
　喜んでもらえるだろうか、期待に胸を膨らませつつ。
「……水も持ち歩かなくちゃね」
　今日学んだ、研究者を襲った不遇な事故から、アリスは水は絶対に持ち歩かなくてはならないと心に決めた。

「楽しかったか、ルヴィア？」
　片手にビスクドールのルヴィアを乗せながら、御剣刀は寝子島へと帰る。
　ルヴィアへと、問い掛ける言葉は優しく。
　そして、手にした薬の入った土産の小瓶を見やる。
　これが──もし、無機物が動き言葉を交わす薬であったなら──
「………………」
　薬を作っていた時と、同じ苦笑が浮かぶ。きしりと苦笑の元となる感情に胸が僅かに痛んでも。一度自覚した思いは消えない。
「──行くか、ルヴィア」
　春風が、寝子島へ降りた刀の髪を軽く揺らした。

　最後に研究者と曖浜瑠樹が揃って頷き合っていた。
「星幽塔は広いから、これからも、色んな薬草が見つかってお薬沢山できると良いねぇ！」
「ああ、期待していてくれ！　これからも研究には全力を注ぐつもりだ！
　ところで、アルレッテさんは今日は店の仕切りで忙しかったかね？
　個人としては、ここの有名な店主の腕前も是非拝見したいところだったのだが」
　不意に話を振られたアルレッテが、ほんの少し決まりの悪そうに微笑んだ。
「今日は賑やかだったからね。私の調合なら、明日の朝でもいいかな？
　もし明日の朝に来てくれるなら、こちらでも把握している範囲での、今日のお客さんが残してくれたレシピを纏めておくよ。
　そちらにも控えはあると思うけれども、お客さんが多かったから、把握内容が違うかも知れないし」
「是非！　是非お願いしたい！！
　それじゃあ、明日の朝に！」

　そうして最後に研究者が、うきうきと今日取っているらしい宿屋へと戻っていく後ろ姿を見送って、アルレッテは今日一日の慌ただしさを受け流すように大きく深呼吸をした。

　アルレッテの薬作りは、まだ終わっていない。

このページにイラストを設定する