【星幽塔】第一階層　薬屋『Uisge beatha』｜リアクション

【星幽塔】第一階層　薬屋『Uisge beatha』

　夜、更けて。
　閉店後の薬屋では、未だ消えていない静かな灯りがついていた。
　賑やかだった昼間と異なり、音一つ無い作業場の空間。
　そこに、アルレッテ・ザメニスの手にしている杖『パディァル・ナ・イーハ』に添えられた、飾りの細い金属輪が、硬質だが細やかな音を響かせた。

　冷たい水での禊を終えて、アルレッテはここに来た。
　過去、アルレッテが存在していた世界にて、神官としてその身を置いていた彼にとって。今の彼にとって、神殿で無心に祈る行為と、薬を調合する想いはまさしく同じもの。
　ゆっくりと息を吸い、呼吸していることを忘れるほどの細い糸のように吐く。
　そうして、アルレッテは改めて昼に何となく考えていた構想を現実の形に収め始めた。

「もらったハンドクリーム……ああいうのは作ったことがなかったな。
　ちょっと試してみよう」

　少し、口許に指を当ててまずは薬草の種類から思案する。
　選んできたのは、この三種類。
　情熱的な形に対して、甘い香りを持ち、その抽出した油分に美肌効果がある『マッスルバニラ』。
　氷砂糖のようにくどすぎない甘みを持った、強い美肌効果のある『シュガーメロン』。
　通常では鎮静効果と、過剰摂取で熱を帯びる『ホットカカオ』。
　そして、アルレッテは調合を始めるにあたり、杖『パディァル・ナ・イーハ』の銀輪を再び揺らし、涼やかに辺りを鳴らし清めた。

　まずはマッスルバニラの油分を必要量抽出して、そこに少しずつホットカカオとシュガーメロンの成分を念入りに混ぜ込んでいく。

　落ち着いて、少し素直にしゃべれる様に。
　唇で触れた場所から熱い思いが伝わるように。

　それを蜜蝋と共に、丁寧に湯煎した瓶の中に流し込みんで──

　その穏やかながらも、優しく強い思いを込めて。
　アルレッテが杖を持ち念じれば、癒しの力を宿した杖から、ふわりと【夜の光】と名付けられた月光のような光体が現れ、星の力と共にそっと、固まる前のリップクリームに溶け込んでいった──

「完成、だね」
　湯煎から降ろして、いくつかの小さな器に入れて固めれば完成。
　アルレッテは、これが思い至る切っ掛けになった純朴な青年を思い返して、そのリップクリームを『恋呼び』と名付けた。

「完成したお礼に、彼にもあげようか」
　これは、あまりにも純粋な思いと効果で作られたものであるから。きっと、『恋呼び』は彼のような存在にこそ相応しいに違いない。
　完成した、恋を呼ぶリップクリームの完成に、アルレッテはほっと無心の内にため込んでいた息をつき、満足そうに微笑んだ。

「さて、これで──ああ、後は今日一日で出来た薬の情報をまとめないといけないんだったね。私自身の勉強にも繋がるから良いけれども」
　アルレッテが一日分の疲労を背負って、大きく腕を上に上げて背筋を伸ばした。

　こうして、薬屋『Uisge beatha』の長い一日が、ようやく終わりを向かえた。

　ここで作られた薬が、どこか誰かの役に立つことを願って。

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あとがき

担当マスター：冬眠
ファンレターはマスターページから！

ご参加くださいました皆様、最後まで読んでくださった皆様、誠に有難う御座います。この度ＭＳを務めさせて頂きました冬眠と申します。

今回は、星幽塔第三階層をメインにした薬草を扱って『自由に薬を作ろう』という形を取らせていただきましたところ、皆様から本当に様々なバリエーション溢れる薬のアクションをいただきまして、感銘と共に緊張に震えながらの作業となりました。

今回作成しお持ち帰りをいただきました薬は、基本的に一律『効果一回分』となっておりますが、改めて別の機会に大量生産していただきましたり、改良を図っていただく事が可能となっております。
ご自由にアイテム化していただいたり、パラメーターを振っていただくことも可能です。
素敵な星幽塔ライフの一助として、是非お使いいただけましたら、この上ない幸せでございます。

それでは、この度はご参加いただきまして、誠に有難うございました。
ご縁とご機会がございましたら、また是非お目にかかれますことを願いまして。

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