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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
並走せよ！ 暁の神速ランナー
雨に濡れないランナーが、朝日が昇るのを待たずに一人街道を行く。
「今日もいるんだな。あの幽霊」
桜井 ラッセルは『黄色いピヨコ』の力でカナリアに変じ、神速ランナーを追った。真横を同じほどの速度で小鳥が飛んでも、幽霊はまったく意にも介さない。昨日もそうであったし、今日も同じだった。並んで飛ぶラッセルを見ることなく、ランナーはただひたすらに寝子島街道を本土へ向かって走っていく。
最近ホラーへの耐性がつきはじめたラッセルは、この幽霊をここ二、三日、カナリアの姿で追っていた。さすがに端から端までを並んで飛ぶことは不可能だが、ある程度の距離ならばできない話ではない。ラッセルは幽霊がたどり着いて消える、本土側の街道で幽霊と合流するルートを選んだ。小鳥のラッセルの姿はランナーとは認識されないせいか、噂で聞いた『早朝街道を走る生きた走者の数だけ幽霊が増える』トリガーとはならないようだった。転ばされることもないし、身に不幸が起きた覚えもない。
本土へ続く橋が見えてくる。もうすぐ幽霊ランナーの姿が消え、スタート地点に戻るころだ。ランナーは決して橋を渡ることがない。まるでこの島に、街道に縛られているかのように、橋の手前で消え、朝日が昇るまで、またスタート地点に戻って走り始めるのだ。それを見るのがラッセルにとっては辛かった。彼だけは、機械のように疾走を繰り返す神速ランナーが、消える間際に心底悲しそうな表情をすることに気づいていたからだった。
（がんばってんな！ ランナーさん）
ぴぴぴ、と小鳥のさえずりで、ラッセル＝カナリアは神速ランナーに呼びかける。
答えはない。
（……そんな悲しい顔で走るなよ）
神速ランナーは答えない。顔を歪め、今にも涙を流しそうな表情で走りきり、そして消えてしまった。ラッセルは変身を解き、誰もいなくなった街道で、終わることのないコースを走り続けるランナーを哀れに思った。今頃はもう、無表情に戻った顔で星ヶ丘付近を走っているのだろう。
「雨の日って言うと、あいつを思い出しちゃうな」
ラッセルはうつむく。幽霊にだって、忘れたくない『あいつ』がいるはずだ。かつては彼も人だった。自分たちと同じ思いを持っているに違いない。
「思い……叶えてやりてぇな」
「……またいる。なぜ天候の悪いときに走るんだろうね」
涙を隠したいからではないだろうか？ 逆巻 天野はそう考えた。幽霊の噂は知っていた。朝の牛乳配達のアルバイトで、猛スピードで走るその姿を見たからだ。雨の日が多くなってきたせいで幽霊ランナーの出没タイミングも増え、それにつれて、並んで走ろうとする連中も増えてきた。追いつけずにがくりと膝を着く者、無謀にも自転車で挑んで転がされる者。その光景を横目に天野は幽霊ランナーの姿を撮影してみていた。
（これで幽霊かろっこんか、見分けがつくかもしれないしね）
写った画像を確認してみると、何もない。確かに人々の目には見えていると言うのに、そこにはひとりでに跳ね飛ばされたり、うずくまったり、必死に走ったりしている人間（あるいは、もれいび）が写っているだけだった。
（やっぱり幽霊なのかな。……でも、僕が気になったのは、そこじゃない）
天野は図書館で調べ、コピーしてきた記事を見ながら考える。それなりに手間のかかる作業だったが、彼にとってはさほど苦でもなかった。事実のみが語られている新聞記事は、人がひとり死んでいると言うのにひどく淡白だ。酔っ払いに大学生がはねられた。それだけ。だが実際はそうではない。その後二十四年間も、何かが残り続けているのだ。
「……あいつに、連絡入れてみようかな」
天野は御剣 刀にメールを送る。走る、といえば真っ先に思い浮かぶ友人だ。島の異変には人一倍敏感な男でもある。ひょっとしたらもう、自分と同じように動き始めているかもしれない。
程なくして帰ってきた刀からの返答メールに天野は顔をしかめる。
「一緒に並んで走る、だって？」
確かに走ることが得意な人物ではある。彼のろっこん『加速』なら、神速ランナーに並ぶことも可能だろう。だが、刀からのメールにはこう書かれていたのだ。
『全力で勝負する。今長距離走のトレーニング中だ』
この全力とはすなわち、刀の生身としての全力のことだろう。馬鹿正直に、天野の信頼すべき友は、自動車並みの速度で走る幽霊と競争すると言うのだ。やれやれ、と思うのが半分、あいつらしいな、と思うのが半分。
「じゃあ僕は、こちらを当たってみよう」
天野が指すのは、神速ランナーに変貌した、石田選手の事故以前の活躍の記事。そこに最高のライバルにして親友として笑顔で並ぶもう一人の男子選手の姿があった。
「今日もいるんだな。あの幽霊」
桜井 ラッセルは『黄色いピヨコ』の力でカナリアに変じ、神速ランナーを追った。真横を同じほどの速度で小鳥が飛んでも、幽霊はまったく意にも介さない。昨日もそうであったし、今日も同じだった。並んで飛ぶラッセルを見ることなく、ランナーはただひたすらに寝子島街道を本土へ向かって走っていく。
最近ホラーへの耐性がつきはじめたラッセルは、この幽霊をここ二、三日、カナリアの姿で追っていた。さすがに端から端までを並んで飛ぶことは不可能だが、ある程度の距離ならばできない話ではない。ラッセルは幽霊がたどり着いて消える、本土側の街道で幽霊と合流するルートを選んだ。小鳥のラッセルの姿はランナーとは認識されないせいか、噂で聞いた『早朝街道を走る生きた走者の数だけ幽霊が増える』トリガーとはならないようだった。転ばされることもないし、身に不幸が起きた覚えもない。
本土へ続く橋が見えてくる。もうすぐ幽霊ランナーの姿が消え、スタート地点に戻るころだ。ランナーは決して橋を渡ることがない。まるでこの島に、街道に縛られているかのように、橋の手前で消え、朝日が昇るまで、またスタート地点に戻って走り始めるのだ。それを見るのがラッセルにとっては辛かった。彼だけは、機械のように疾走を繰り返す神速ランナーが、消える間際に心底悲しそうな表情をすることに気づいていたからだった。
（がんばってんな！ ランナーさん）
ぴぴぴ、と小鳥のさえずりで、ラッセル＝カナリアは神速ランナーに呼びかける。
答えはない。
（……そんな悲しい顔で走るなよ）
神速ランナーは答えない。顔を歪め、今にも涙を流しそうな表情で走りきり、そして消えてしまった。ラッセルは変身を解き、誰もいなくなった街道で、終わることのないコースを走り続けるランナーを哀れに思った。今頃はもう、無表情に戻った顔で星ヶ丘付近を走っているのだろう。
「雨の日って言うと、あいつを思い出しちゃうな」
ラッセルはうつむく。幽霊にだって、忘れたくない『あいつ』がいるはずだ。かつては彼も人だった。自分たちと同じ思いを持っているに違いない。
「思い……叶えてやりてぇな」
「……またいる。なぜ天候の悪いときに走るんだろうね」
涙を隠したいからではないだろうか？ 逆巻 天野はそう考えた。幽霊の噂は知っていた。朝の牛乳配達のアルバイトで、猛スピードで走るその姿を見たからだ。雨の日が多くなってきたせいで幽霊ランナーの出没タイミングも増え、それにつれて、並んで走ろうとする連中も増えてきた。追いつけずにがくりと膝を着く者、無謀にも自転車で挑んで転がされる者。その光景を横目に天野は幽霊ランナーの姿を撮影してみていた。
（これで幽霊かろっこんか、見分けがつくかもしれないしね）
写った画像を確認してみると、何もない。確かに人々の目には見えていると言うのに、そこにはひとりでに跳ね飛ばされたり、うずくまったり、必死に走ったりしている人間（あるいは、もれいび）が写っているだけだった。
（やっぱり幽霊なのかな。……でも、僕が気になったのは、そこじゃない）
天野は図書館で調べ、コピーしてきた記事を見ながら考える。それなりに手間のかかる作業だったが、彼にとってはさほど苦でもなかった。事実のみが語られている新聞記事は、人がひとり死んでいると言うのにひどく淡白だ。酔っ払いに大学生がはねられた。それだけ。だが実際はそうではない。その後二十四年間も、何かが残り続けているのだ。
「……あいつに、連絡入れてみようかな」
天野は御剣 刀にメールを送る。走る、といえば真っ先に思い浮かぶ友人だ。島の異変には人一倍敏感な男でもある。ひょっとしたらもう、自分と同じように動き始めているかもしれない。
程なくして帰ってきた刀からの返答メールに天野は顔をしかめる。
「一緒に並んで走る、だって？」
確かに走ることが得意な人物ではある。彼のろっこん『加速』なら、神速ランナーに並ぶことも可能だろう。だが、刀からのメールにはこう書かれていたのだ。
『全力で勝負する。今長距離走のトレーニング中だ』
この全力とはすなわち、刀の生身としての全力のことだろう。馬鹿正直に、天野の信頼すべき友は、自動車並みの速度で走る幽霊と競争すると言うのだ。やれやれ、と思うのが半分、あいつらしいな、と思うのが半分。
「じゃあ僕は、こちらを当たってみよう」
天野が指すのは、神速ランナーに変貌した、石田選手の事故以前の活躍の記事。そこに最高のライバルにして親友として笑顔で並ぶもう一人の男子選手の姿があった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2013年09月18日
- 参加申し込みの期限
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- 2013年09月25日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2013年09月25日 11時00分
