【みんないっしょに！】

「わわわっ！」
　とっさに身をかわしたライラプス。潜水服ギアのリベットガンから放たれたクギがどかどかどか、木の幹に突き刺さりました。
「おいこら、ちびっこ！　セラフを盾にしやがれって言ってるのですよ！　前に出すぎなのです！」
「うわぁ、怒られた！？」
　ディヴァインセラフにもダメージは蓄積しつつ、実によく耐えています。
　基本は防御に徹しながらも、時折隙を見つけては、
「セラフっ、レーザー発射！！」
　びしゅん！　神々しいセラフヘッドから光条が走り抜け、暴走ギアの何体かを薙ぎ払いました。
　けれどやはり立ちはだかるのは、セラフに負けじと頑丈な、あの潜水服型です。
「あんにゃろー、厄介なのです……っ」
「だいじょーぶだぞー！　ゆきのがゼッタイ、やってくれるからなー！」
　にかっと笑ったあんず！！！が指差すところでは、ゆきのがアルミちゃんを巧みに操り、攻撃をひょいひょいぴょいんと避け続けています。
　ただ避けているのではありません。いつか訪れるはずの隙を、鋭くうかがっているのです。
「絶対……当てるっ」
　狙うは一本角による、必殺の一撃！
　とはいえ、ずうっとそうして待っているわけにもいきません。
　公園のなかでは、ケガ人が増え続けています。小さなカプセルギアですから、暴走ギアの攻撃を受けてもちょっとした切り傷刺し傷くらいですけれど、まだ小学校低学年の子どもたちには一大事なのでした。
「わあああん、いたいよぅ！」
「ぼくのギアが、ぼくをぶったぁ！」
「「うわわ～～～ん！！」」
「はいはーいっ、ミリアおねーさんが治してあげる！　だいじょうぶだいじょうぶ！」
　ミリアはそんな子どもたちの世話をよく見ています。なだめて、絆創膏を張り付けて、Pain, pain, go away！　ちびっこたちは目をぱちくりした後、ぴたりと泣き止んでくれました。
　近づく暴走ギアには、ナースなギアのナッちゃんが、注射器をずどん！
「メッ！　わるいこは、ミリアとナッちゃんがお注射しちゃうよー！」
　サポート体制は万全です。ディヴァインセラフの防御を盾にライラプスが隙を作り、アルミちゃんがとっておきの一撃を叩き込む……その準備は整っているのです。
　けれど、もう少し。あと一歩！　ほんのわずかに届きません。
「っ、邪魔……しないで……！」
　ゆきのは眉を寄せて、前方を見据えます。
　暴走ギアたちの動きはどこか似通っていて、同じようなパターンを繰り返しているように見えます。それだけに多数の攻撃がアルミちゃん、そしてセラフに集中することになり、壁のように迫る群れに阻まれて、いちばん排除しておきたい潜水服型ギアに近づくことができません。
「うちがやるぞー！　うおーーーっ」
「アンちゃん、ひとりじゃ危ないよー！？」
　ミリアが止める声も届かず、あんず！！！はゆきののために隙を作ろうと、ライラプスのミサイルを次々に発射しながら突撃していきます。
　肉球から展開するシールドで攻撃を防ぎつつ、暴走ギアの真っただ中へと斬り込み電撃を浴びせて、快進撃！
「あと少し、もう少し……あ！」
　リベットガンの一撃を受けて、ライラプスはバランスを崩して吹き飛び、ころころと地面に転がりました。
　そこへ多数の暴走ギアが殺到して、大ピンチ！

「……いけっ、イザナミ！！」
　無数の剣や銃弾がライラプスへ直撃する……その直前。乱入したのは、真っ黒な影でした。
　闇のような刃を黒く閃かせ、ずばん！　暴走ギアたちを一刀両断！
「や、やった、うまくいった……！？」
「おーっ！　助かったんだぞー！」
　助っ人は、ナオ！　ぞろりとした黒いローブを纏う死神型カプセルギア、新たな相棒となったイザナミ壱式を暴走ギアとライラプスの間へ割り込ませ、大鎌で敵機を薙ぎ払ったのでした。
　とはいえナオはまだまだ、すこぶる初心者ギアマスター。今日だって、まともに動かせるくらいにはなりたい……と『よいこのカプセルギアきょうしつ』へやってきたくらいですから、余裕なんてひとつもありません。
「早く……あんまり持たないから……！」
「うんっ、ありがとーおにーさん！」
　ナオのつたない操縦でも、イザナミはなかなかに様になる動きを見せてくれました。大鎌を振るうとローブがはためき、その下に隠されている女性型のシルエットがちらり。
　彼がなんとか持ちこたえている間に、あんず！！！は再び突撃！
「援護するのですっ、さっさと決めてやがれっなのです！！」
　ディヴァインセラフが強烈なビームを放ち、暴走ギアたちの群れの一角を崩しては弾き飛ばし、
「アンちゃんユキちゃん、そこ！　いけそうだよー！」
　意外に状況をよく見ているミリアは、ナッちゃんの注射器を手近な敵機に突っ込みつつ、にわかに生まれた隙を指し示します。
　ナオが簡易端末を慌ただしく操作し、イザナミ壱式が浮かぶように動いて距離を詰め、大鎌をひと振り、ふた振り。
（少しでも、みんなの役に……！）
　黒衣の脇を駆け抜けたライラプス。真正面には、どっしりと構えた潜水服型ギアが待ち構えています。
「いっけーーーっ！！」
　あんず！！！の叫びとともにライラプスは飛び込み、至近距離でランチャーを全門開放。ミサイル全弾発射！
　ちゅどどどどどんっ！！
「やりやがったのです！？」
　もうもうと上がった爆炎のなか、ゆらりと覗くシルエット。
「あっ……！」
　立ち上がったのは暴走を続ける、潜水服型ギアでした。ドリルをぎゃりりと回転させ、ライラプスへトドメを刺さんと大きく腕を振りかぶり、
「……隙……見つけた」
　ターボロケット点火！　背後から強襲するのは、アルミちゃん！　じりじりと待ち続けていた決定的なチャンスを、ゆきのが逃すはずもありませんでした。
「いっけーゆきのー！！」
「やっちゃえアンちゃんー！！」
「決めちまえーっ、です！！」
「頼む……！！」
　あんず！！！、ミリア、キリエ、ナオの祈るような声が響くなか。潜水服型ギアはドリルを振り上げ急速旋回するも……その瞬間、勝負は決していたのです。

「これで……終わり……！」
　ずどんっ！！
　その姿はまさしく伝説に語られる、獰猛な一角うさぎ。潜水服型ギアの装甲へ、深々と突き立たてた角を引き抜き離れると、とたんにぴしぱしと電弧がスパークして、やがて潜水服ギアは大爆発！
　炎に照らされて頬を赤く染めながら、ゆきのは仲間たちを振り返ります。小さくこくりとうなずいたその顔は、どこか自信に彩られておりました。



「俺のギアがめーわくかけて、悪かった！　みんなありがとなー！」
　元気で明るい少年が、草の上に転がった潜水服型ギアを拾い上げて、お礼を言いました。
「こっからは、俺も手伝うよ。早くほかのカプギアも助けてやろーぜ！」
　どうやら、ギアバトルでやっつけたギアは暴走から目覚めて元に戻り、再び操縦が可能になるようです。ドリルをぐりぐり回して、少年はやる気十分！　今度は頼もしい味方として活躍してくれそうです。
「まだまだ、暴走は収まらないみたいだな……」
　つぶやいたナオの耳には、あちこちで戦いの音と、子どもたちの悲痛な声が届きます。
　ちょっぴり仕切りたがりなキリエがずばっと腕を掲げて、気合とともに言いました。
「やろーども、もうひと仕事なのです！　暴走ギアを根こそぎブッ倒して、元に戻してやるのですよっ！」
「「「おーーーっ♪」」」
　あんず！！！、ゆきの、ミリアの三人組はこぶしを突き上げ、まだまだ元気いっぱいです。
（私にも、手伝えることがありそうです……ね、イザナミ）
　おぼつかない操縦でも、なんとかみんなのお役には立てました。ナオだってこの場にあっては、ひとりのギアマスターなのですから！
　五人は顔を見合わせてうなずくと、自由を取り戻したカプセルギアたちとともに、次の戦闘フィールドへと飛び込んでいきました。