【不死鳥のように！】

　ブレイズガーディ、猛ダッシュ！　ぞろぞろと暴走ギアを引き連れて、セツナは囮役を務めます。
　ただ、相手もおとなしくついてくるばかりではありません。中にはスピード重視の素早いタイプが何体か混ざっていて、少しでも操縦を誤ると、たちまち飛びかかられてしまいそうです。
「ヌヌー。追いつかれそうデス……ナラバ！」
　しゅぱん！　画面を流れるようになぞると、

「バディ！　Beast mode！！」
　瞬間、ブレイズガーディはしなやかな黒豹型へと変形！　状況に応じて姿を変える可変型ギア、それがブレイズガーディの真の姿なのです。
　いつも苦労人な保護者を振り回しっぱなしの彼女も、やる時はやるのです！
「ブーストッ！！」
　黒豹は各部のスラスターを噴射して高速回転、砂ぼこりを巻き上げ竜巻を作り身を隠します。
　暴走ギアたちに目くらましをプレゼントしたところで、死角から強襲！
「回り込んデ～、Robot mode！　Rifle ＆ Blade attack！！」
　再び人型へ変形して銃撃と斬撃の波状攻撃。反撃にはさらに再変形して身をかわしつつ、ビームクローで一撃を加えます。
　ふたつの形態を巧みに使い分けるセツナは、もはや完全に反撃へと転じ、暴走ギアたちを返り討ちにしていきました。……けっこーお強い感じですけれど、どうしてこれでギアバトル勝率０％なんでしょう……？
「ヌ！　ユキトー、そっちに行ったデス！」
「オッケ」
　ボナパルト２がビームスナイパーガンを至近距離でぶっぱなし、暴走ギアが構えた手持ちのミニガンを吹き飛ばします。
「環。使ったら？　ソレ」
「え？　あっ、クラスメートの……牧君？」
　マトコもまた、MAKIYUKIとは同じクラスだったりします。彼がカプセルギアに詳しいらしいことは、なんとなく知っていました。
　ひゅーんっと飛んできたミニガンを、ネオムが滑らかに動く尻尾でがっちりキャッチ！　バッテリーや弾倉を内蔵した巨大なバックパックを柔軟かつ強靭な尾で保持したまま、ぐりんっと腕を回転させて、銃身のグリップをがっちり握り込みます。
「それじゃ……ごめんね、ちょっと借ります。わわわ、わわ！？」
　トリガーを引いた瞬間、ずがががが！　ベルトリンクを通じて供給される銃弾が六本の回転銃身から途切れることなく吐き出され、暴走ギアをまとめて薙ぎ払いました。
「へえ。潮見原のピーキーなヤツ、ケド汎用性バツグン。イイね。思ったよかカッコイイじゃん」
「！　ほ、ほんと！？　牧君もそう思う……！？」
　なかなか人には理解されないネオムの良さに触れられて、マトコはちょっぴり、興奮してしまったりしました。
　背後に迫る暴走ギアへ、ネオムは各部の間接を人体に不可能な角度で回転させて、ミニガンの銃身を叩きつけて迎撃。気を良くしたマトコはネオムを跳躍させると、手のように動く足と尾でミニガンを操作しつつ、左のマシンガンと右のプラズマカノンも交えての一斉射撃！
「紫電一閃のご活躍……エル！　わたくしたちも、ネオムさんに負けていられません！」
　最前線のネオムを援護するのは、アイリスとエルミナータの役目です。
　まるで亡霊のダンス……エルミナータは音もなく地を滑り、踊るように美麗なドレスアーマーの裾を翻しては、右腕のボウガンで敵機を撃ち抜いていきます。ネオムが倒し切れなかった暴走ギアを優先的に、時に中距離からの速射で、時に懐へもぐりこんでの散弾モードで、矢弾は狙い違わず突き刺さりました。
「アイリスちゃん！」
「ええ、マトコさん！」
　エルミナータはネオムと体を入れ替えシールドを展開、危なげなく銃弾の雨を受け止めて、ボウガン連射のカウンター！　変幻自在なネオムにも生まれるわずかに死角を、アイリスは完璧なまでに補っているのでした。
　と、
「あ！　かけるくん、危ないです！」
「分かってる……っ！」
　イベントに集まった子どもたちの数は多く、公園内にはいまだ無数にも思えるほどの暴走ギアたちがあふれています。
　飛翔するセイクビリットへ追いすがるのは、特にスピード特化タイプのギアたちです。MAKIYUKIのボナパルト２、セツナのブレイズガーディが援護の銃撃を放つも追撃を完全にかわすことはできず、背後から浴びせられる攻撃に、セイクビリットのダメージは加速度的に深まっていきます。
「まずい……リット、こっちだ！」
　思いもかけないことが、時には起こるものです。それはまったくの、無意識による行動でした。
　かかげた手のひらへ、傷ついたセイクビリットが降り立つ瞬間……SHOは、ぱちりと目をつぶったのです。畳みかけるような銃撃の雨に、愛機が傷つくのは見るにたえなかったのかもしれません。
『……どうした、SHO。私たちのバトルはここまでだなどと、腑抜けたことを言うつもりか？』
「っ！？」
　誰？　と問うまでもなく、分かりました。理解できました。
「リット……なのか？」
『私たちは一心同体だ。お前が心強くあらば、私はいくらでもお前に応えよう』
　この島へやってきて、もれいびとなった翔の、これが初めてのろっこん発動の瞬間でした。
　共鳴するままに、SHOは。
「ああ……そうだな。まだやれる。そうだ、俺たちは……！」
　ちらり。かたわらのMAKIYUKIへ視線を投げかけると、彼は無表情のまま、けれど小さくうなずいたような気がしました。
「アンタから受け取った不死鳥の心は……ああ！　何度だって蘇るさ！！」
『そうだ。何度傷つこうと、何度地に落ちようとも。SHO！　お前の胸に、不死鳥の炎が灯る限り！！』
　鳳凰の翼で空を打ち、セイクビリットは再び飛び立ちます。
　迫る暴走ギアたちの群れへ、臆することなく突貫！

「勝つぞ、リット！！
唸れッ、ラ・スパイラル！！」
　巻き起こった真紅の竜巻は、高らかに響く鳴き声のように鋭い音をかき鳴らしながら、全てを飲み込んでいきました。



　目を細めて、風になびく髪を押さえつつ。周囲に見える暴走ギアたちがあらかた大人しくなり、子どもたちが自分のギアを拾い上げて安堵するところを眺めつつ、
「今回のこと……なにか知ってたら、教えてくれる？」
　ネオムを手のひらの上に乗せた的子は、雪人を振り返ります。
　少し三白眼気味の瞳にはいつもの彼女が見せない、真剣な輝きが宿っていました。
「私のネオムは、暴走してないけど。もしそうなってたら、私、すごく嫌だなぁって思う。こんなことがまた起きたらって思ったら、私……真実と顛末を、ちゃんと知っておきたいよ」
「あー、ウン。ま、だよね。そりゃ分かってる」
　的子の真っすぐな目に見つめられて、ごまかすようかりりと頭をかいた雪人。どこか手持ちぶさたに、ふいと視線を外します。
　それを横からひょいと覗きこんだのは、ぱちぱち目を瞬かせるトワ。
「みんなのギアが一斉にボウソーって、ありえるんデス？　どっちかっていうとトワはー、A.I.C.O.に介入があった。って思うマスケドー」
「それは……」
　なぜ？　誰が、どうしてこんなことを？　気になることはたくさんありました。
　この場にあってやけに冷静で、まるでなにが起こるか分かっていたかのような雪人の態度もまた、腑に落ちないところはあったでしょう。
　それでも、
「確かに。俺もアンタには、聞きたいことがある。なにか知ってるんだろ？　けど、今は」
　眼鏡のレンズの向こう、翠と紅のグラデーションを描く瞳が示した先では、まだまだギアたちの暴走が続いています。持ち主である子どもたちは悲しい顔を浮かべて、一部のギアマスターたちも団結して対処に当たっているものの、事態の収拾にはまだまだ遠いようです。
「詳しいことは、後だ。やらなきゃならないことがある……止まってはいられない」
「そのとおりです！　さあ、的子ちゃん！　みなさま！」
　ふわりと微笑み伸ばした逢莉の手に、的子はこくりとうなずきます。トワは元気いっぱいの気力満タン。翔はどこかバツが悪そうな雪人の肩を叩き、促しました。
「わたくしたちで、みなさまを守りましょう！　意気昂然といざっ、です！」
　つかの間の安堵を経て、子どもたちは再び、新たなバトルへと飛び込んでいきました。