メーデー・メーデー｜リアクション

メーデー・メーデー

「ロベルト？　久しいな」
「どうした美少年に全財産溶かしたような顔をして」

　放課後の教室で、先に待っていた神嶋征一郎と内藤武諭が物音に反応する。その視線の先には、入ってきたばかりのロベルト・エメリヤノフ。しかしロベルトはどこか呆然としたような表情で虚空を見詰めていた。ロベルトは上の空のまま、譫言のように言葉を零す。

「僕も美少年にうさみみをつけさせたい……」
「おいィ？」

　ロベルトの頭にあるのは、《Délicieux!》で見たうさみみ少年店員の姿と、可愛らしい客の姿だった。そして、先程財布の中身を持って行った美少年の顔も。征一郎と武諭が顔を見合わせて、冷静なツッコミを返す。

「子供の日にはしゃいでる姿も見たい……」
「通報するか」
「あまり調子に乗ってると裏世界でひっそり幕を閉じることになるぞロベルト」

　二人の冷静なそれに、ロベルトもはっと我に返って、意識を現実へと戻した。通報という言葉に慌て、それと同時に二人を呼びだした本来の目的を思い出す。

「やめて、通報しないで！　と、そうじゃなくて！」

　ロベルトは二人に、《Délicieux!》で見かけたあるチラシの話をした。なんでも五月に向けた新メニューが決まらないという。そんな話を聞いて、武諭は腕を組み考え込む。以前もこんなことがあったと思い出しつつ、組んでいた腕を解いた。

「うむ、メニュー考案か」
「材料は持ち寄りでさ、どうかな？」
「仕方ねぇな」

　満更でもなさそうな二人を見て、ロベルトはほっと息を吐く。こうしていざ応募となったところで、具体的に何を作るか、やいのやいのと話しだした。三人寄ればとはいえ、特段料理が趣味というわけでもない三人だ。凝ったものは難しい。三人とも内心そう思いつつ、意見を出し合う。

「サンドイッチが楽そうだな」
「ミネストローネも良いと思うが」
「あー、たしかに。出来るだけ簡単にできるのがいいよね」

　漠然と決まったところで今度は入れる具材は何にするべきかと侃侃諤諤の中、征一郎が口を開いた。

「自分達の髪の色にちなんで青白赤の食材を入れればいいんじゃねぇか」
「赤と白は思いつくけど……青って何かあるかな」
「フルーツサンドはどうだ。ブルーベリーが使える。他はラズベリーとクリーム」
「なるほど！　さすが内藤！　せっかくだから鯉のぼりっぽい形にしようか」

　話し合いは進みに進む。あともう一品、中にピラフを入れたちまきを作るということになって、もう作るだけといった段になってから、武諭が今まで放置されていたところを突いた。

「で、ロベルト。誰の家でやるんだ？」
「え、ええーっと……それは……」

　ここで自分の家といわず、どこか気まずそうにあちらこちらを見ているロベルトの様子に、征一郎が溜息を吐く。

「……仕方ねぇ。自分のキッチン貸すから来い」
「うむ、神嶋の家に上がらせてもらうのか」
「ひゅー！　さすが神嶋！」

　天の助けの如き征一郎の申し出に、ロベルトがすかさず口笛を吹いて手を叩いた。武諭もとくに異論を唱えることもなく、頷く。征一郎はそのまま囃し立てるロベルトを華麗にスルーして、流れを本題に戻した。それにロベルトは少々しょんぼりする。

「米炊きもある故、ちまきは自分が担当するぜ」
「ミネストローネは俺が作ろう。考えがある」
「じゃあ僕はフルーツサンドか」

　こうして話も落ち着いたところで、それぞれ材料を用意して征一郎の家がある星ヶ丘へ集合……と決めて、その場は一時解散となった。