メーデー・メーデー｜リアクション

メーデー・メーデー

「なんか上達したね」
「それほどでもない」

　完成したばかりのミネストローネを見たロベルトの言葉に、武諭は謙虚にもこう返した。まとめたレシピの材料の項目、その一部は、
　アスパラガス
　シメジ
　エシャロット
　ローズマリー
　……と並んでいた。この部分を見て、武諭はしみじみと言う。

「よし、このミネストローネをアシエロスープと名付けよう」
「アシエロスープか……なんだかアシエロ麺を思い出すね。あれはあわびとしいたけと……えのきとロース……だっけ」

　征一郎、武諭、ロベルトの頭に、あの夏の思い出が浮かぶ。どこぞの宇宙人のように吊られた誰か、困っていた冷やし中華屋の店主、審査員……。そして何よりも、三人で試行錯誤しながら生み出した、あの三皿。

「……懐かしいな、去年の夏……俺達３人で作った渾身の３皿……」
「今も食べられるのかな……」

　思い出に浸る中、征一郎が冷静な言葉をかけた。

「今更かもしれねぇがアシエロって何だ？」

　アシエロ。今回も現れたその謎の文字列とは何か。場は沈黙に包まれ、ロベルトは首を傾げる。

「……さあ？　足がエロいの略かな」
「今回もそんな要素ねぇだろ」
「ノリだノリ」

　次に蒸し器の蓋を開けて、中のちまきを取りだす。フルーツサンド、もといトリコロールサンドに、アシエロスープ、征一郎が作ったちまきが並ぶ。

「……自分の料理が不味そうなんだが」
「そうかな？」
「揃ったし味見するか」

　三人はまずアシエロスープを飲んだ。

「あ、美味しい」
「まあまあだな」
「それほどでもない」

　名前こそ変わっているが、中身はちゃんとしたミネストローネだ。美味しく飲み終えた三人は、征一郎の作ったものに手を伸ばした。笹を開くと、おこわともなんとも言えないご飯が出てくる。誰が一番に食べるか、読み合いの中、武諭が先陣を切る。武諭は無言でそれを口に含み、もぐもぐと口を動かした。

「……どう、内藤？」

　飲み込んだ武諭の様子を、ロベルトが恐る恐る見ている。武諭は爽やかにサムズアップして、その場に倒れた。

「病院で栄養食を食べるハメになる」
「な、内藤―！！」

　伏せている武諭を、泣き顔のロベルトが揺さぶる。征一郎も狼狽して二人を見下ろした。

「そんな……こんなことって……」
「おい……」

　すると、武諭の目がカカッと見開かれ、そして身体ががばりと起き上がる。元気そうな様子の武諭に征一郎は内心ほっとするが、それに続いた彼とロベルトの言葉に青筋を立てた。

「冗談だこのくらいではしなない」
「びっくりした？」

　征一郎の手刀がロベルトの額に振り下ろされる。ロベルトは直撃したそれに小さく悲鳴を上げてから、焦り謝った。尚も征一郎の手刀は振り下ろされる。

「ご、ごめんって、怒らないでよ神嶋！　アッ痛い！　なんで僕だけ！？」
「ロベルトだからだろ」
「な、なんでだよー！」

　星ヶ丘にロベルトの声が響いた。

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