メーデー・メーデー｜リアクション

メーデー・メーデー

「うむ、皆そろったな」

　星ヶ丘の真っ白な町並みの中、青、白、赤の髪の三人が立っていた。二人の手には買い物袋がある。白髪の武諭が、二人を見て頷いた。青い髪の征一郎が、二人を先導する。赤い髪のロベルトは、ずんずん先に行く征一郎と武諭を追った。

「神嶋の家やっぱ大きいなー。キッチンも広いし」

　星ヶ丘寮の中にある、征一郎の部屋に上がって、ロベルトはその広さをしみじみと実感して言った。綺麗に整理整頓されたその部屋は、部屋というより最早家と言ってもいい広さだ。征一郎はそれを当たり前だと一笑に付してから、二人の買い物袋に目をやる。

「持ってきたか？」
「安心しろ、親に聞いてそろえてある」
「じゃあさっそく神嶋にご飯を炊いてもらって……って神嶋！？」

　まずはちまきに使う米の用意からということで、征一郎は炊飯釜に米を計り入れ、水を入れ……その手に食器用洗剤を取った。それを見たロベルトと武諭は目を丸くして征一郎を止める。征一郎は首を傾げた。

「最初に洗うんじゃねぇのか」
「洗剤はだめだ俺にもわかる」

　と、不穏なスタートを切ったトリコロールの面々であったが、無事に米をセットし、それぞれの分担に入る。征一郎は二人の勧めによって、スマホを見ながらだ。しかしその手元は震えていて随分と危なっかしい。

「大丈夫かな、神嶋」
「心配いらねぇ」

　ぷるぷると手を震わせながら野菜を切っている征一郎に、ロベルトも心配から声をかけた。ロベルトもサンドイッチ用のパンを切っているが、その手は迷いがない。あとは具を乗せ挟むだけの段階に入っている。一方、武諭はベーコンと玉ねぎを炒めていた。いい匂いが漂ってくる。

「うむ。知能が鯉のぼりに上がるな」
「何を言っている？」

　そこにすかさずロベルトがはっと、何やら天啓を受けたような面持ちでやってきた。

「ねえ！　僕思ったんだけど子供の日って――」
「気が散る。料理は一瞬の油断が命取り」

　しょんぼりとしたロベルトのその隣、征一郎はやっとすべての食材を切り終えて炒め始める。大きさがバラバラでゴロゴロの野菜がフライパンの中で転がった。強火に晒され続けるフライパンの端から白い煙が上がっているが、征一郎は気にせず調味料をかける。ちらりと、征一郎は隣の武諭を見ては自分との違いに驚き、思わず口を挟んだ。

「内藤、調味料間違えてねぇか？」
「レシピ通りだが」

　武諭はその時、ローズマリーを鍋に入れていた。鍋の中は灰汁のない綺麗な赤色で、実に美味しそうだ。ロベルトも飾りつけを殆ど終えているのを見て、征一郎はスピードを速めた。パチパチとバターの跳ねる音が響くフライパンに、炊き立てのご飯を投入する。混ぜ合わせている間に、先に入れていた野菜の端が焦げかけてきた。ハムは片面が黒くなっている。征一郎はチャーハン状になっているピラフだったものを見て首を傾げ、火を止めた。

「できたー？」

　ロベルトがそれを覗き込んで、武諭を呼ぶ。征一郎はこれから笹の葉でチャーハンを包むところだったが、相変わらず危なっかしい彼の手元に二人とも手を伸ばす。

「どれ手伝おう」
「こんな感じでどうかな？」

　そんなこんなでなんとか包み終え、蒸して……タイマーが鳴る。完成だ。

「おい、鳴ってる」
「ど、どうなってるかな……」
「今回も良いものが出来上がると俺は信じてやまない」

　そういった不安や確信を胸に、武諭は鍋の蓋を開ける――。