メーデー・メーデー｜リアクション

メーデー・メーデー

「あら、可愛らしいお客さん」
「えへへ」

　《Délicieux!》に、シックなワンピースの少女が入ってきた。先客である柔らかい雰囲気の老婆に笑顔でそう言われて、佐藤瀬莉は照れくさそうに笑う。イースターの時に訪れて以来、なかなか来れなかった彼女だが、すっかり変わった店内を見回して、新鮮な気持ちで椅子に腰かけた。あの時うさみみを付けていた店員も、今や男子のつけるような兜をかぶっている。瀬莉は景色の中のある貼り紙が気になって、注文ついでに訊こうと店員を呼ぶ。すると、紗雪というネームプレートを付けた店員が応じた。

「あれなに？」
「ああ、あれっすか？　店長さん……店の一番偉い人ね。今すごく悩んでて、皆からいいアイデアがないか聞いてるんですよー」

　店員は今の説明でわかっただろうか？　というような視線を瀬莉に送っている。貼り紙には、五月の新メニュー募集の旨が書かれていた。瀬莉はなんてことのないような顔で口を開く。

「ふうん……大丈夫、わかるよ」

　瀬莉はもう今月の１日に誕生日を迎えて、12歳になった。このくらいの話ならよくわかる。注文した料理を食べ終えてから、瀬莉は応募するレシピを考えつつも帰路についた。

　帰宅した瀬莉は、早速キッチンに材料を広げる。そして、忘れずにと用意していたデジタルカメラをセットした。撮影モードになっているのを確認してから、ボウルに材料を入れて、クッキー生地を作っていく。だいたい混ざったところで、どんな形のものにするか。帰り道で考えた通り、鯉のぼりや兜のようなモチーフで型抜きしてみるが、もう半分の生地は、別のデザインで作ってみたくて手を止める。

「男の子ってメカっぽいのが好きなのよね……たぶん」

　瀬莉のクラスでも、メカの話――とくに、カプセルギアの話でもちきりだ。瀬莉もそれにあやかってみようと思い、超合金風の鋭角的なデザインを表現してみる。

「カプセルギアっぽくしてみようかな」

　と言いつつ、成形していった。オーブンにそれらを入れてからはカメラを一時停止して、焼けるのを待つ。その間、瀬莉は手持ちの時計を眺めて、いつか自分が時計職人になった時のことを考えた。クッキーは我ながらよく出来ていると思うが、精密機械である時計を作るにはもっと……。そうしていると、オーブンからチーンという音がした。

「どうだろ……」

　先程からバターの良い匂いを漂わせていたそれを開けると、確り焼きあがったクッキーが天板に並んでいる。メカ型のものは丸っぽくなってしまったが、それは想定内。冷ましたそれの上にアイシングで模様を描いていく。子供の日クッキーの出来上がりだ。瀬莉は完成品をしっかりと映してから撮影を止めて、レシピを送る準備にかかる――そのまえに、まず味見だ。一つ取って、サクサクと食べる。

「うん、美味しい！」

　そういえば。瀬莉はレシピを書いている途中で試食会のことを思い出した。

「他の人はどんなレシピを送ったのかな？」

　瀬莉は想像力を働かせて、他の人が考えそうなメニューを思う。鯉のぼり型？　カーネーション型？　それとも子供の好きそうなもの？　気になる。きっと、行けば食べられるだろう。そう思いながら、瀬莉はデータをまとめた。