メーデー・メーデー｜リアクション

メーデー・メーデー

　少年店員の頭にぴんとたったうさみみが揺れるのを、ロベルト・エメリヤノフはじっと見ていた。ふわふわのしっぽも揺れて、レジの方から彼を呼ぶ声がする。ロベルトは連れの美少年に睨まれながらも財布を開いた。会計を終えて、美少年がサービスの飴を受け取っている間に、ふと――貼られているチラシが目に入る。新メニュー募集という内容のそれに、ロベルトは数人の友人を思い浮かべたが、美少年に肩を叩かれ、我に返る。そうして、美少年がずんずん先に進むのを、ロベルトは慌てて追いかけた。四月の陽気が漂う頃だった。《Délicieux!》は今日も盛況である。

「それでは私はこれで……」

　その前を走る道路に、陰陽師風の男が一人、先程まで一緒に居た者と別れてふらりふらりと歩いてきた。

「それじゃ先生に怒られるよ」
「大丈夫だよ」

　後方から、小学生たちの歌う茶摘み歌が聞こえてくる。どうやら音楽のテストで歌うものらしい。男はやや調子はずれなそれを聞きながら、そういえばもうそんな時期だったかと考えた。男は《Délicieux!》の看板を見て足を止め、気紛れ気儘に中に入る。

「薄羽白露様」

　名前を読み上げられて、男――白露は二人掛けの席に案内された。その風貌をちらちらと観察されながらも、白露はメニューを開く。決めたところで、白露はこいのぼりやカーネーションなどの飾り付けが目立つ店内を見回した。その中で、一枚のチラシが目に留まる。レシピ募集の旨が書かれたそれに、白露は興味を示す。といって、白露自身料理をする性質ではないから、軽く口を出す程度だが――白露は自分のテーブルに来た店員に、いつもの調子で声をかけた。

「ねえ」
「はい、なんでしょう……？」

　御巫と書かれたネームプレートを付けた店員は、目をぱちくりとさせながら応える。白露はチラシを指差すと、店員は

「協力してくださるんですか……？」

　という。白露は自分はあまり料理をしないが、と前置きしてから口を開いた。

「日本の茶葉を使ったお菓子はどうだろう？」
「日本茶ですか……？」
「五月と言うと茶摘み歌があるしね。和菓子か洋菓子かは好きに作っていいけどね、どちらも組み合わせ次第ではあうだろうし……」

　白露の言葉を店員は丁寧にメモして、暫し考える。白露は彼女の様子を見ながら、イスに深く腰掛けた。店員はイメージを固めたのか、コクリと頷いて厨房の方へ向かっていく。

「ありがとうございます……！　ちょっと作ってきます」

　試作品が出来るのを待っている間、白露は袂から折り紙を取り出して、その一枚を居り始める。カーネーションや鯉のぼりの形を、器用に折っていった。二つ目の鯉のぼりにさしかかったところで、白露は幼稚園ほどの少年が白露のテーブルに近付いてその様子をじっと見ていることに気付く。

「ちょっと、他のお客さんのテーブルに行っちゃダメでしょ」
「構わないよ」

　母親が窘めようと声をかけたところで、白露はその少年に完成した折り紙を手渡した。嬉しそうな様子で手を振る少年に、白露も手を振り返す。茶葉のいい香りが厨房から漂ってきた。

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