機導戦歴ネコジマ｜リアクション

機導戦歴ネコジマ

■嵐の前の、凍える前の、穴が空いてしまう前の
「『目を閉じる』の定義が曖昧です。眼球のカバーを閉じる意味のほか、空想の暗示、暗闇の類義、睡眠の暗示、その他複数の暗喩がヒットしました。第一項を覗く全てに対して理論的説明がつきません」
　強襲用航空戦艦９９－Ｗ『真白』。非摩擦強制装甲（フェイシャルシールド）展開時に可視光線をも反射し白く輝くことから『真白』の名前で呼ばれるこの船は、戦闘時における突入作戦を想定して建造されたアンドロイドである。
　そう、アンドロイド。白真白型人格情報をインストール（パーソナルパターンインストール、略してＰＰＩ）した戦艦型アンドロイド。それが真白である。
　「しっかし、ほんとに人格データなんて入ってんのかね。ロボットと会話してみるたいだぜ」
　小さなコントールデッキでお行儀悪く足を投げ出すナガレ。
　水守流ＰＰＩの工作アンドロイド。ケダモノの巣に潜入しての爆破工作か、進行ルートへの罠の設置、そのどちらかが彼の役割である
　今回は前者。以前に発見したケダモノの素に大量の爆薬をしかけ、ケダモノごと埋没させて処理することを任務にしていた。
「ロボットの定義が曖昧です。初出は人類西暦１９２０年チェコスロバキアにおける小説作品の――」
「あー！　うるっせー！」
　両手で耳を塞いで足をじたばたさせるナガレ。
「べつにいいだろなんでも！」
「『なんでもよい』はオールオーケーとオールナッシングの両方の意味を持ち――」
「ぎゃー！」
　ナガレは椅子の上で器用にごろごろ転がったあと、むくりと起き上がった。
「マシロ、ここでいい。下ろしてくれ」
「了解。三番ハッチを開きます」
　ナガレは席をたつと、コントロールデッキの奥にあるケージに入った。
　オペレーションのほぼ全てをマシロがこなすこの戦艦において、コントロールデッキを広くする意味は無い。アンドロイドとその他物資を格納して運ぶ能力と兵器があればよい。ゆえに、この船はいつもひとりきりだった。
「人類に栄光あれ」
「他に何かいうことは？」
　足下に空いた穴を見下ろし、船内スピーカーに振り返るナガレ。
「他に、とは」
「『またな』、とかさ」
　ナガレはそうとだけ言って、自由落下に身を任せた。

　その僅か６分後、巨大な古墳状をしたケダモノの巣は爆破され、内部のすべげを抱いたまま大地に埋没した。

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