８０００文字探偵｜リアクション

８０００文字探偵

■名探偵、伊藤緑
　走る車の後部座席。ひとり足を組む美女がいる。
　彼女の名は伊藤緑。
　人呼んで迷宮探偵。
　数々の事件に挑み、その全てを迷宮入りさせた奇跡の探偵である。
「ふ、ここね」
　止まった車から降り、サングラスを外す。
　学校名の書かれたプレートをキッとにらみ、サングラスの先っぽの所を色っぽくくわえた。
「私立ネクロマティ高校……」
　で、ゆーっくりと振り返った。
「運転手さんここちがう。ネコジマ高校、ね・こ・じ・ま！」

　走る車の後部座席。ひとり足を組む美女がいる。
　彼女の名は伊藤緑。
　人呼んで迷宮探偵。
　数々の事件に挑み、その全てを迷宮入りさせた奇跡の探偵である。
「ふ、ここね」
　止まった車から降り、ミレニアムサングラスを外す。
　学校名の書かれたプレートをキッとにらみ、サングラスのデザインをいまいちど凝視した。
「ちょっと誰よ私にこんなの装着させたのは！　スタッフ！　すたーっふ！」

　走る車の後部座席。ひとり足を組む美女がいる。
　彼女の名は伊藤緑。
　人呼んで迷宮探偵。
　数々の事件に挑み、その全てを迷宮入りさせた奇跡の探偵である。
「ふ、こ――みぎゅん！？」
　急停車につんのめった緑は運転席のシートに顔をうずめた。
　外にはぷしゅーと煙をふくボンネット。あと盛大にひしゃげた校門。
「だれが校門に突っ込めっていったのよ！　もういいわよ、まったくもう……」
　緑は車から降りると、一路事件現場へと向かった。

「うっ、ひどい現場ね」
「被害者はサンマ先輩。包丁でガッてやられた。あと周りで倒れてるのはノリで服毒した連中だしさっきからカメラでピンナップ撮影してるのは尺を使い切った前任者だから気にするな」
「気になるわよ……」
「あとさっきマンボウくんが自首したが気にするな」
「気になるわよ！」
　コホン、と咳払いしながら緑はサンマ先輩（死）に歩み寄った。
「まずは整理しましょう」
　脳内にイメージボードを作成する緑。
「まず、サンマ先輩」
　ボードにクレヨンで描かれるサンマ先輩。
「密室でさされる」
　クレヨンで描かれる包丁。
「犯人はマンボウくん」
　クレヨンで描かれるマンボウくん。
「動機はサンマグッズばかりでること」
　クレヨンで描かれるサンマキーホルダー。
「鍵をかけて閉めた」
　精巧な油絵で描かれるリアルなマグロの横顔。
　緑は頭を抱えてうずくまった。
「だめ……全然わからない……！」
「いや丸わかりだが」
「点と点がつながりすぎて五芒星になっちゃったわ！」
「器用だな」
「でもここで諦めてはだめ。もっと整理してみましょう！」
　緑は立ち上がり、脳内イメージボードを更に広くとった。

　サンマ先輩は本当に他殺か。
　死因は本当に失血死なのか。
　現場は本当に密室になったのか。
　マンボウくんは本当に犯人か。
　サンマ先輩グッズっていいよね、ネコに咥えられてるやつだけでも種類があるし。あとあのグッズで些細な願い事がかなうっていうけどほんとうに叶うの？　そのシナリオまだ私出てないんだけど。
「くっ、だめ……本当にわからない……！」
「もうおたく帰ったほうがいいよ」