８０００文字探偵｜リアクション

８０００文字探偵

■料理人、新田樹
「すていすてい……」
　注目の集まった樹は両手を翳して場を落ち着けた。
「考えてみてください。私とサンマ先輩は何の接点も無いんです。それに私を犯人と決めるのは、私の推理を聞いてからでもおそくはないと思いませんか」
「たしカニ（納得できる事柄があると混入するカニの一種。貝を主食とする）」
「では始めましょう」
　樹はどこからか取り出した帽子を被り、どこからか取り出した白衣を着ると、すごくシェフっぽい格好でキッチンの前に立った。
「どっちの、りょーりでショー！」
　照らされるライト。
　鳴り響くＢＧＭ。
　拍手する観客たち。
　『審査員』とかかれた席に無表情で座るサキリ。
「今週も始まりました、司会者の提供する料理のうちどちらを食べたいか選んで貰うちょー斬新で一切のパクリがない人気番組、どっちのりょーりでショー！　司会はわたくし新田樹――」
「と、天才漫画家工藤来夢がお送りするわよ！」
　せいやあといって司会者席に飛びついてきた来夢。
「ばかな、編集さんに連れ戻された筈じゃ」
「残念だったわね、トリックよ」
　言いたかっただけのやつを言ってから、来夢は身なりを整えた。
「編集から逃げる。それは漫画家が誰しも持っている基本スキルなのよ」
「それが基本でたまりますか」
「それで早速本日のお料理は！」
　ででん、という効果音と共にサンマさん（死）がスライドイン。ワゴンにのってスライドイン。
「ハンバーグでーす！」
「映像と料理がまるで一致しない！（来夢の個人的な感想です）」

　樹はスーパーで買ってきた豚の挽肉を一握りとって小麦粉とアレしてこう、なに、卵？　を、こう、ぱぱって、やって、こう、あの、なんやかんやで――！
「サンマさんに刺さっている包丁は、偽の犯人を仕立て上げるための偽装……とは考えられませんか」
「言ってることとやってることがまるで一致しない（サキリの個人的な感想です）」
　こぶし大にまとめて上手に空気を抜いたタネを熱して油をひいたフライパンに滑らせるように敷いていく。
「なぜなら……えっと……あの……包丁ってー、刺さったらー、あのー、痛いし、あぶない？　じゃないですかー」
「途中からふわっふわしてる（来夢の個人的な感想です）」
　ぱちぱちと音をたてるハンバーグに耳をすませ、暫く蓋をする。
「だから多分ー、毒殺？　じゃないかと、おもうんですよー」
「理論展開が突然すぎる（サキリの個人的な感想です）」
　暫くたってからフタをあけるとふっくらとしたハンバーグ。それを一度ひっくり返せばこんがりとした焼き色が。
「というわけで、現場に持ち込んだこの青酸カリをぺろっとやってみましょう」
「理論展開が突然すぎる！（サキリと来夢の個人的な感想です）」
　立ち上がる二人。
　そこへハンバーグがスライドイン。マグロ先輩（死）と一緒にスライドイン。
「これって……」
「いや、おちつこう。まさか本当に毒を飲ませるわけがない」
「そうよね。途中から完全に料理番組だったものね」
「彼女を信じて、まずは一口食べようじゃないか」
　おそるおそるナイフとフォークで切り分けて、はむりと一口。
「「うん、青酸カリ！」」

　しばらくおまちください。