謎の少年は、雨と共に……？｜リアクション

謎の少年は、雨と共に……？

「うーん、こうなると後は……」
「図書室に卒業アルバムとかないかしら？　それを当たってみる？」
「でも、量が半端ないと思うのだ……」
　千唐と蛇那伊の言葉に、真央ががっくりと肩を落とす。とりあえず図書室へ行ってみる３人だったのだが……結果から言えば、収穫はなかった。と言うのも、卒業アルバムは整理中なので閲覧できない、と図書委員に言われたからである。仕方なく、３人は別の事を調べる事にした。
　その途中、蛇那伊達は廊下で一枚の写真を拾う。おっとりとした雰囲気かつ色白で、ちょっと童顔っぽい女性の物で、裏には何も書かれていない。優しい微笑みは、見る物の心も和ませる。
「これ、誰のかしらねぇ」
「なんだか優しそうな人なのだ。見た目からして、誰かの奥さんなのだ？」
「そういえば、奥さんの写真を持ち歩いている先生って、いましたねぇ」
　三人は、とりあえず後から落とし主を探す事にした。

　――武道場：ボクシング部部室

　ボクシング部の部長である円に案内された千歳は、そこに先生がいない事を確認すると小さくため息を付いた。
「確か、探し物をしているとか言っていたわね」
「ここに来ていないかちょっと部員のみんなに聞いてみるよ」
　円が声をかけようとした時、奈良橋博美と三崎楚良、綾辻綾花もここを訪れた。
「すみません、牛瀬先生はいらっしゃいますでしょうか？」
「いないみたいだよ～」
　綾花の声に円は頷き、部員達に聞いてみる。殆どの者が首を振る中、１人だけ答える者がいた。
「そういえば、先生がさ。昼休みにここで探し物してたみたいだぜ。なんでもないとか言ってたけど、小さな声で『あのハンカチ、どこいったんかなぁ』とか言ってたぞ」
　綾花達はふと、『謎の少年』が落としたハンカチの事を思い出した。今、それを持っているのは楚良である。
「先生に会ったら、ハンカチを探すのを手伝って……ついでにトリガーが雨なのか、調べられるかもしれないな」
　楚良の言葉に、円と千歳も反応する。彼女たちも『牛瀬先生がもれいび』という線の捜査をしていたのである。
「……でも、こんな雨の中よ。外へ探しに行くかしら？」
「どうだろうなぁ。探しにいくかもしれねぇよ？」
　千歳の言葉に博美は肩をすくめる。外に行くなら、と楚良は円と千歳に傘を貸してくれるのだった。

　――北校舎１階：職員玄関

　円達が探していた牛瀬巧は、ちょうどここにいた。彼は安物のビニール傘を片手に今、まさに外へ出ようとしていた。
「先生、少しいいですか？」
　通りがかった御剣刀が声をかけると、巧は不思議そうな顔で振り返る。
「ええと、御剣君だったかな。何かあったんか？」
「少しお伺いしたい事がありまして。先生、この制服と校章、見覚えがありませんか？」
　そう言って見せたのは、月詠が書いた『謎の少年』の似顔絵。そこに制服と校章もちゃんと描かれており、見せたら何か反応があるかな、と思ったのだ。そして巧はと言うと……僅かに考え、「知らんなぁ」と首を振った。
「そうですか……」
「ま、シャツと黒いズボンやったら、結構見かける制服やな。校章に見覚えは無いんやけど、探し人でもしとるん？」
　巧の問いに、刀は「そんな所です」と答え、礼を述べて立ち去る。巧は刀を見送っていたが、玄関を出、傘を開いた。

（外に出たか）
　巧が外に出たのを確認し、刀もまた職員玄関から外に出、追跡を開始した。そうしながらも、拳児に話を聞いた時の事を思い出した。
　放課後に入って直ぐ、刀は「その少年は、牛瀬先生に似ていないか」と質問していた。それに対し、拳児は「言われてみればちょっと似ていた気がする」と言っていた。
（正体を積極的に明かそうとは思わない。けれど、あの２人はお礼を言いたがっているし、会って貰いたいな）
　雨足が、僅かに強くなった気がしながら、刀は巧を追跡し続ける。そこで気がついたのは、巧が何かを探しているという事だった。
（ハンカチって言ってたな。それと……写真？）