【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【epilogue(1)】

　そして、平和になった塔での日常が終わろうとしている。
　これは、そんな彼らのささやかなエピローグ。

　＊　＊　＊

　第十二階層にてバーガンディの手伝いを終えた恵御納久隆は、その足で、かつて第一階層で調達した家の様子見にやってきていた。
「ひとまず賊や影に荒らされた形跡はないようだ」
　久隆は決して広くはない家を見まわしながら、一つ息を吐く。
　だが、荒しもされていないが、手入れもなかなかできていないために室内は少し埃っぽくなっていた。
（……いかに理沙が普段掃除を頑張ってくれているかが思い知らされるな）
　久隆は本土の一戸建てで、妻の恵御納理沙と二人暮らしをしているが、家が埃っぽいなどと思った記憶はほとんどない。
「確か、こちらでは酒場でアルバイトをしてみたいと言っていたか……」
　片づけが済んで、時間に余裕があれば店を覗いてみよう。そして、たまには自分が綺麗にした部屋でくつろいでもらおう。
　そう心に決めて、久隆はせっせと掃除を開始する。
（そういえば、夏朝はこちらでも元気にやっているだろうか）
　ふと娘のことも気になりつつ、久隆は静かに掃除を続けている。

　＊　＊　＊

　その恵御納夏朝は、ねこよろずで、仲間達とささやかな祝勝パーティを開いていた。
「それじゃ、遠野さん。お願い」
　夏朝が、遠野まほろにそう水を向ける。
「……えっと、それじゃあ僭越ながら私が乾杯の音頭を取らせてもらうね」
　少し遠慮がちに部屋を見渡せば、そこには椿美咲紀、常闇月、八神修、それにアニにオトートなどといった、いつものねこよろずのメンバーが大集合している。
「……それじゃあ、塔の平和を祝して――カンパイ！」
「「「「乾杯！！！」」」」
　メンバーの声が唱和し、それからささやかな宴が催される。
「やはり平和とは良いものでございますね」
　と、月が飲み物に口をつけながら静かに呟く。
「平和になったし、これからもっとお店も繁盛しちゃうかも☆」
　と美咲紀も上機嫌だ。
「ああ。これからも支店を拡大していかないとな」
　修はそう言って頷きつつ、今日手に入った謎の機械部品を見やる。
（……これはどう見ても人の手によってつくられた機械だ。しかも、『塔』の外では見たことがない技術が使われている……）
　おそらくは水没した古代都市で栄えていたであろう未知の機械文明。
（いつかもっとよく調べられるといいな……）
　その文明に対する好奇に、修は瞳をきらきらと少年のように輝かせるのであった。

　＊　＊　＊

　そんな平和を満喫する者達がいる一方で、
「にしし。第五階層の革命派、第六階層の過激派。そして、あっしの魔物達……」
　雑貨屋「アテルラナ」の地下で、愛する（？）ペット達を見つめながら、骨削瓢は悪い笑みを浮かべていた。
「塔にはびこる憎しみは消えちゃいない。憎悪の炎を絶やすことなく煽り続け、牙を研ぎ澄ませ、彼らの宿敵を倒す力を身に着けさせるべく焚きつけてやるよぃ」
　昏い笑みをたたえる瓢が生きているのもまた、塔を取り巻く暗い『日常』の一幕――であるのかもしれない。