【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層(17)】城下町の日常(7)

　それから、ロウシュカ・ヤナーチェクとプニ・ポヨが何軒かの店を梯子した先に辿り着いたのが、武器屋付よろず屋『ねこよろず』だった。
「～～♪」
「おや、今度はここがいいのかい？　へぇ、可愛らしい看板のお店だねぇ」
　ご機嫌なプニに先導されつつ、ロウシュカは「お邪魔するよ」と店内に足を踏み入れる。
「「いらっしゃいませ」」
　と出迎えてくれたのは、おそらくは双子と思しき、猫型獣人の男二人だった。
「何かお探しでしょうか？」
「いや、特に何が見たいってわけじゃないんだよ。とりあえずこの子と好きに見させてもらっていいかい？」
「かしこまりました」
　ロウシュカが言うと、猫の獣人は素直に頷いて、店の仕事に戻った。
「ーー♪」
　プニは、色々な物が所狭しと並んでいるこの店を随分と気に入ったようだった。
　ロウシュカも釣られるようにして、店に並んでいる商品を物色し始める。
（へぇ。本当に色々なものが置いてあるんだねぇ……。甘やかすつもりはないが、一つぐらい何かプニに買ってやってもいいかもしれないねぇ……）
　そんなことを考えながら、ロウシュカがちらとプニを見やると彼はある商品の目の前で、きらきらと少年のような瞳を輝かせていた。
「おや、何か気に入ったものがあったかい？」
　とロウシュカが覗き込んだ先にあったのは、新商品と宣伝された『１２星座シンボルのアミュレット』だった。
「ほう。なかなかいいセンスじゃないか……。欲しいのかい？　どうしても欲しいっていうなら、一つだけなら買ってあげてもいいよ。でも、一つだからね。よーく考えな」
　ロウシュカが念を押すように言うと、プニはしばらく考え込んだ後、やはりこれがいいとそのアミュレットをロウシュカの手に乗せた。
「よしきた。それじゃあ、お会計を済ませてくるからちょっと待つんだよ」
　ロウシュカはプニにそう言い聞かせて、カウンターに座る白いローブの少女――遠野まほろのもとに向かう。
「お嬢さん、こいつを頂くよ」
「……あ、はい。ありがとうございます」
　まほろは、ロウシュカが手にしたアミュレットを見ると、少し目を見開き、それから少し嬉しそうに顔を綻ばせた。
「なんだい？　私の顔に何かついているかい？」
「……あ、いえ、ごめんなさい。……じつはその商品、私が作った新商品なんです。お店に並べてからずっとお客さんに喜んでもらえるかどきどきしていて……」
　ロウシュカの問いに、はにかんだようにまほろは微笑む。
　その素直そうな反応に、ロウシュカはまほろに好感を抱いた。
「～～♪」
　会計を済ませたアミュレットを渡すと、プニはそれを手に持ったままくるくるとまわって喜んだ。
「……あなたも気に入ってくれた？　よかった」
　まほろは、プニの少し変わった姿を見ても、不躾な視線を向けたりせずに普通に接してくれた。
　そのことで、ロウシュカはますますまほろに好感を抱いたのだった。
「じつはこの子、プニ・ポヨっていう名前なんだけど、影のせいでずっと森から出られなかったらしくてね。影もいなくなったし、少しでも外の空気や人に慣れてもらおうと思って今日は街に連れてきたんだよ」
「……そうだったんですか。……辛かったんだね」
　と、まほろが言うと、プニが「～～？」と小さく首を傾げる。まだまほろとはコミュニケーションが取れなれていないせいか、上手く伝わっていないらしい。
　それでも、プニとこうして会話をしてくれる相手ができたことは大きな収穫だとロウシュカは思っていた。
　それから、ロウシュカはまほろと自己紹介を交わし、店をあとにすることにした。
「……今日はいい買い物ができた。また機会があれば寄らせてもらうよ、まほろ君」
「はい。お待ちしてます、ロウシュカさん……。プニちゃんもまた、ね……」
「～～♪」
　そうして、ロウシュカとプニは店を出て、さらなる観光を続けるのであった。