【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第五階層】日常の光と陰

　第五階層。聖なる森と呼ばれる広大な森の入口から少し入ったところに、簡素な木造のボロ小屋がある。
　光のほとんど差さない暗い小屋の中で、それよりもさらに暗い闇色のローブを身にまとい、骨削瓢は喜悦の表情を浮かべていた。
（にししっ……。あのときは早々に鎮圧されちまったが、まだあっしの播いた種の芽は完全に摘まれちゃいないのさぁ……）
　邪悪な笑みを浮かべて目を細める瓢の瞳に映り込むは、現体制に不満を持ついわば革命軍の構成員達が侃々諤々意見を戦わせる姿。
「だからッ！　次期法王を決めるコンクラーヴェを目前に控えた今こそ、我らが理想を実現するための法王を擁立するために、こつこつと草の根の活動を続けることが大事だと言っているだろうッ！」
「何を悠長なっ！　そんな及び腰では現体制を崩すことなど砂上に楼閣を建てるがごとき！　それよりも、今こそ我々の総力を上げて蜂起し、新たな体制を創りあげるべきときだ！」
　現在、聖王国革命軍は大きく二つの勢力に分かれている。
　一方は、聖王国の形式的なトップである法王に、自分達にとって都合の良い人物を据えようとする、正規の手続きに乗って革命を起こそうとするいわば穏健派。
　もう一方は、革命軍の名の下に武力蜂起をし、クーデターによって理想を実現しようとする武力派。
　現体制に、不満を抱いているところは同じでも、物の見方も考え方も、何もかもが違う二つの勢力の意見は互いに平行線を辿った。
（やれやれ。これじゃあ埒があかないねぇ……。次期法王を擁立するにせよ、）
　見かねたように、瓢はふぅと溜息を吐くとゆっくりと立ち上がり、そのまま持ち前の身軽さをいかして、二つの勢力が意見を戦わせるテーブルの上にひょいと飛び乗った。
「皆の衆、よ～くお聞きよぃ」
　いきなり議論の場に飛び込んできた闖入者に、ざわざわと小屋の空気がざわついた。
　自ずと視線が瓢の一身に集まる。
　その頃合いを正しく見計らい、瓢は朗々と声をあげた。
「いいかい。おたくらの理想はなんだい？　ここでいつまでもごちゃごちゃと御託を並べていることがおたくらのやりたいことなのかい？　違うだろぉ？　だったら、おたくらがやるべきことはここで未来について語ることじゃなく、現実を変えるために実際に行動を起こすことさぁ。そうだろ？」
　瓢の言葉に、穏健派と武力派の代表が互いに目を見開く。
　やがて、二人は頷き合うと互いの手を取り合い、硬く握手をする。
　それに、両勢力の構成員達が歓声を上げて、小屋の中の熱気のボルテージはいやがうえにも高まっていく。
　そんな様子をちらと見て、

（にしし……。これでよし、と。さあ、これでまた面白いものが見られそうだよぃ……）

　瓢は、焚きつけるだけ焚きつけると、そのままそそくさとその小屋を後にした。
　何のために？
　もちろん、次なる喜劇の種を塔の大地にバラ撒くために。