【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層】城下町の日常(6)

　その日、サジタリオ城下町に、いつもは見慣れない二人（？）が姿を見せていた。
　一人は、片耳だけを頭上に生やしたキツネの獣人の女、ロウシュカ・ヤナーチェク。
　そして、もう一人（？）は、そんなロウシュカの足にぴったりとくっつきながら、おっかなびっくりあたりを見まわしている水色の半透明な身体を持つ小さな生き物プニ・ポヨであった。プニは、どことなくスライムを思わせる透き通ったボディに、塔の外で言うところの『ゆるキャラ』の愛らしい目と口と手足、それから髪飾りのような白い花が頭につけた、一言でいえば謎の生き物であった。
　そんな見た目からしても珍しいプニは、街を行く人々の好奇の眼差しを一身に浴びて、小さな身体をますます萎縮させてしまっている。
（……やはりまだ人になれていないのかねぇ）
　と、ロウシュカはそんなプニの姿を見て思う。
「さあ、プニ。城下町に着いたよ。それじゃあまずは森で狩った獲物をお金に代えに行こうか？」
　ロウシュカが獲物が入った袋を背負いなおしながら、プニの頭を優しく撫でて言う。
「――♪」
　すると、プニは少し嬉しそうにぶんぶんと首を振って、肯定の意を示す。プニは言葉を話すことができず、ロウシュカとのコミュニケーションはもっぱら表情やボディーランゲージで行っていた。
「よしよし。それじゃあ、はぐれないようにしっかりとついてくるんだよ」
「――♪」
　そうして、二人（？）はまずは獲物を売るために街の市場に向かう。

　＊　＊　＊

「思ったよりもお金になったねぇ」
　獲物を売り、小さな袋にずっしりと硬貨が入ったお金に代えたロウシュカは満足げに頬を緩ませながら言った。
「――♪」
　見れば、プニも先程よりは随分と街に慣れた様子で、興味深げに街のあちこちの様子を観察している。
（最初に出会った頃は影のせいで、怯えてばかりだったけれど……随分と元気になったもんだねぇ）
　ロウシュカは、心の中でそう呟くと、
「影を倒してくれた冒険者達には感謝しないといけないねぇ……」
　と、独りごちた。
「さあ、プニはどこに行きたいんだい？　ここはこのあたりじゃ一番大きな街だ。酒場から武器屋、雑貨屋から占い屋まで、大概の店は揃っているよ」
　ロウシュカがそう問いかけると、プニは小さな手を前で組むようにして、うーんと考え込むようなポーズを取る。
　プニは、言葉は話せないものの、言葉が理解できないわけではなく、それゆえにロウシュカが言った言葉の意味も正確に理解しているようだった。
　どこかワクワクとした表情を見せるプニの姿に、ロウシュカは思わずといったふうに笑みをこぼす。
（……最初に出会った頃はいったいどうなることかと思ったが。本当に随分と明るくなったもんさね）
　そんなふうに、ロウシュカはプニとの出会いを思い返す。
　ロウシュカが、プニと初めて出会ったのは、狩りをしていたある森の中だった。
　森で鹿や狼を狩っていた最中に影に苛められているプニの姿を発見し、彼女はどこか放っておけずにプニを保護することに決めたのだった。
「――♪」
　気がつけば、プニは一軒の武器屋に向かって突撃を開始していた。
「おやおや。そんなに慌てなくとも、お店は逃げやしないよ……って、ほらほら言わんこっちゃない」
　ロウシュカは勢いあまってずるべったーーーんと地面にダイブして半泣きになるプニの頭を撫でながら、ゆっくりと街の散策を開始したのであった。

　